長浜城を出て、駅前から伸びる旧街道の面影を残した商店街を歩く。なかなか風情があって良い。
通りは結構な賑わいであった。木造と昭和初期のモダンな建造物が良好な状態で残っており、インスタ映えを狙ってか、若い女性、色気ムンムンの熟女グループがスマホで自撮りする姿が目立った。
この商店街では、フィギュアで有名な海洋堂のショップがあったので入ってみた。精巧なモデルはどれもなかなかのお値段で、欲しかったがちょっと手が出なかった。
手ぶらで帰るのも寂しいので、飛び出し小僧の可愛らしいメモ帳を買って帰る。このノートに新作のネタを書き込んでいく予定。
商店街をゆっくり眺めていたら、あっという間に夕方の四時。慌ててショップ巡りのルートに戻る。そうして、ここのブックオフで私は遂に禁を破る。
この旅ではAKBのコーナーはスルーしてきたのだが、つい手にとってしまった。手に取ったら最後、ジャケットの写真に見入ってしまう。忘れよう、忘れようと努力していた、ジムで出会った『まゆゆ似の彼女』との顛末。苦しくなるだけであるし、思いだすから所有せねばよいものを、人間とは弱い。レジに持って行ってしまった。
(※顛末はコチラ↑)
そうして私は金平を助手席に乗せると、その買ったCDを無言でカーステレオにセットした。音量は爆音である。鳴り響くイントロ。私は涙を堪えて一緒に歌うのだ。
呉「♪パパラー、パパラー♪」
金平「頼むから50のオッサンがアイドルソング熱唱するのやめれ!(一人の時やって)」
そうだ。女は裏切る。うつつを抜かす俺が間抜けであった。人生、そんなことに時間を使っていてよいのか? 私には金平がいるではないか。ジムで熱視線を送るヒマがあったら、金平と創作談義をしていた方が何倍も有意義ではないか。確かにまゆゆ似の彼女は可愛かったけど……。いや、それがイカンのだ。未練タラタラやないかい!
私は夕焼け輝く琵琶湖を眺めながら、頭を切り替えた。
呉「金平、ちょっと語らせてくれ」
金平「おぉ、ええど。なんや?」
呉「最近感動したことが二つある」
金平「ほうほう」
呉「一つは明石家さんまの番組で観たんやけど、五十代の漁師が七年間練習してピアノで『カンパネラ』弾いた話。カンパネラって知ってる?」
金平「いいや」
呉「ピアノの難解な曲らしくて、音大出た人でも演奏できへん激ムズな曲なんや」
金平「それを素人が?」
呉「そう。テレビで聴いて感動して『自分でも弾いてみたい』って思われたらしいわ。それから七年間、毎日八時間の練習。楽譜読めへんから、1音ずつ指で覚えてな。で最後、尊敬するピアニストの前で披露するんや。周囲から最初は馬鹿にされたらしいけど『絶対に無理や』って。でも完璧に演奏できたんや」
金平「そりゃ凄いな。でもう一つは?」
呉「たまにツイートしてる作家の佐川恭一さんのことなんやけど」
金平「最近オマエ、リツイートしてるな」
呉「前回話題にした波野發作さん同様、破滅派さん(※利害関係は全くありません。ただの好みのプッシュです)っていうグループの方なんやけど、その佐川さん、自身のツイートで『○○賞二次まででしたー』って、カラッと呟いてはるんよ」
金平「それが何?」
呉「佐川さんな、既に阿波しらさぎ文学賞受賞されてるんやで?」
金平「賞取ったのにまた別の賞に投稿してはるの?」
呉「普通な、文学賞受賞したらよ? それにすがると思わへん? 既に雑誌でコラム連載してはるし、小説も掲載されてるんやで? もし投稿作が落選したらマイナスしかないやん。俺が受賞できたらよ? ええ、はい、私が文学賞受賞した呉エイジです。はい、ええ、貴方は? 文学賞を受賞されていない。はいはい。紙の単著は? 無い。はい、そうですかそうですか。みたいに受賞後、天狗になってまう可能性あるやん」
金平「ひどい応対やな(笑)」
呉「紙の単著出せたことにすがる気持ちあるやん。ホンマは創作家は『常に今』が勝負やのに過去の栄光やまぐれに頼りたい気持ちあるやん」
金平「バブルの時に本出せて良かったな(笑)」
鬼嫁に恐怖するパソコン愛好家の悲哀日記 我が妻との闘争 第1巻 恐妻夫の忍従編 (―)
- 作者:呉 エイジ
- 出版社/メーカー: 角川アスキー総合研究所
- 発売日: 2013/10/10
- メディア: Kindle版
呉「選考委員もな『この方、既に阿波しらさぎ文学賞受賞されてる方やわ』『ならチャンスは他の新人の方に』って絶対になると思うやん? でも送るんやで? そこ感動してな」
呉「カンパネラの漁師もそうや。佐川さんもそうや。『やり続ける』それが結果、すごい成果に繋がってる。常人を越えた思考や。毎日書こう、とは思っても、人間なかなかスイッチは入らへん。でもな、継続は裏切らへんねん」
金平「シンプルやな」
呉「オマエもそうや。オマエの『やり続ける力』も俺は怖い。旅行より家で漫画描いてる方が楽しい、言うてずっとやってるやろ。そこに圧倒される畏怖を感じるし、見習わなアカンって本当に思ってる」
金平「嬉しいな。じゃあオマエは、今年は『読む』より『書く』を優先するんやな。前々から言うてるけど、オマエはもうインプット必要ない」
呉「いや、それは反論させて。よい書き手はよい読み手である。この持論は変わらへんねん」
ずーっとこんな調子で創作に関する話。得がたい友である。
さぁ、そろそろ琵琶湖の店も最終である。今回の旅はお目当てのブツ大量購入、とまではいかなかったが、雄大な琵琶湖、木造天守の彦根城を巡れて、良い旅となった。
呉「おっ、金平。あそこに近江牛の看板あるぞ。牛丼ならワシらの予算に合うんちゃうか?」
金平「ええな。せっかく滋賀県に来たんや。最後はちょっと贅沢するか」
店員「いらっしゃいませー」
この店は『乃木坂46が運営しているのか?』と思うくらい、厨房は若くて綺麗な女性ばかりで目を奪われる。
メニューに目を通す。さすがに我々御用達の牛丼屋チェーン店で出てくる280円の並盛りみたいな値段ではなかったが、それでもなんとか手の届く一杯1500円の近江牛牛丼。
金平「あっ、美味しそうな匂いしてきた。これ絶対に美味しいやつや」
呉「見て見て、金平。お肉が山盛りでやってくるよ!」
呉・金平「ンマーイ!」
少し甘めのタレが絶品であった。肉も軟らかく甘味があって口の中でとろけていった。普段食べている牛丼とは別次元の味である。
少食である相棒も丼を片手に持ちかきこんでいる。そうして再び目が合う。
呉・金平「ンマーイ!」(本日二度目!)
呉「思い切って入ってみて良かったな」
金平「満腹、満腹」
姫路までの帰り道で、粘り強くブックオフを絡めて帰るルート取り。
佐川恭一さんの単行本は今回の旅では見つけることが出来なかった。文学賞受賞後、マケプレでは価格が高騰している。佐川さんはもっと紙の単著をバンバン出していなければおかしい作家さんだ。
定休日地獄もあったが、なんとか無事故で帰ってくることができた。神戸のパーキングエリアで少し休憩。
お疲れさん。さて、今回の旅で得た教訓を書き残しておこう。
・すべての中古ショップをマップで表示したまでは偉い。だが、面倒でも定休日は全部外そう。それが無理なら日程をずらすことを優先しよう。
・素泊まりの安い宿で充分だ。そして車でスーパー銭湯に行けば良いのだ。風呂は重要。翌日の疲れが全然違う。温泉には肩まで浸かって足をほぐすべき。
・ご当地グルメはやっぱり最高。そこでしか食べられない物は、今後の旅でも下調べして積極的に寄っていこう。
ありがとう相棒。ありがとう彦根。良い旅だったよ。
〜完〜
旅のオマケ
そうして私は小型ビートルのフィギュアを部屋に飾ろうと、箱を開けてみた。
呉「プラモかい!」
〜彦根旅行 完〜