呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

平林初之輔「悪魔の祭壇」を読む

 同僚でバツイチの後輩がいるのだが、彼はオフィス内でも格好のいじられキャラだ。

 まず持っているエピソードがカルピスの原液の如く濃厚である。

 インターネットでフィリピーナ女性と結婚し、まぁこれは一度集合写真を見せて貰ったことがあるのだが、彼が迎えにフィリピンへ行った時の写真なのだが、お嫁さんになる人の家族親類、その数五十人以上に囲まれて、彼はど真ん中で笑っていた。

「これ、お前が食事代出したのか?」

「全員の食事代払いました」

 物価が違うとはいえ、よく笑って写真に収まったな、と。おぞましい一枚である。

 その彼は笑いのツボがとても低い。私ともう一人の同僚が、ちょっと言葉遊びっぽいラリーで笑っていても、彼はクスリともしないのだ。

 よくできたダジャレも笑わない。得意先の人のモノマネ(これは私は好きで、過剰さに爆笑してしまうのだが)でも笑わない。

 こうなると、もう一人の同僚と、どうにかして後輩を笑わせたくなる。

 では彼の笑いのツボはなんなのか。そう、それは小学生並みの低レベルな笑いなのであった。

 彼は机に向かって書き物をしている。そこへ同僚が耳打ちする。

「うんこ…」

 彼は真っ赤な顔になって必死に笑いを堪えている。

「山盛りうんこ…」

 口元をプルプル震わせながら肩を揺らせている。

「焼いたうんこ…。ってあなたそれ、ヤケクソのことですやん…」

ブホッ!

 遂に彼の笑いのダムは決壊した。我々の完全勝利だ。しかしその一部始終を後ろから可愛い事務員さんが冷ややかに見ていて私と同僚に一言。

「とても40代の会話とは思えないわ…」

 可愛い事務員さんの前で、またしても醜態を晒してしまった呉エイジ。黒いハイソックスとスカートの間から覗く生足に心奪われている彼に明日はあるのか。

〜つづく〜

 さて、今宵は「悪魔の祭壇」を読み終えた。

 これは解説でも触れられている通り、探偵小説のカテゴリーに加えるには、ちょっと物足りない内容。

 ネタバレ記述があるのでご注意を。

 神父の前で懺悔をする男が、神父の過去、犠牲にあった悪行を突きつけ、逆に断罪する。という一本調子のストーリー。

 淫虐な聖職者、懺悔を聴きながら相手の女性の弱みを握り、それをネタに欲望を果たす、という背徳的な人物造形が面白い、と思える点。

 逆にオチが「そろそろあなたの毒牙にかかった人たちがここへ集まりますよ、祈りの言葉を考えておきなさい」的フェードアウトオチが、やはり物足りない。

1927年(昭和2年)1月「令女会」

 

平林初之輔探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)

平林初之輔探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)