呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

平林初之輔「評論」を読む。その3

 現時点で私の最新のkindle単行本「我が妻との闘争2017 名古屋夫婦二人旅篇」

  この子がまた親孝行な子で、発売からだいぶ経過しているのにも関わらず、毎日未だに数冊売れていき、アンリミテッドの読み放題でもバーが伸びている。

 読み放題は再読の方もいらっしゃるのだろうか? 1ページ0.1円位だったかと思うのだが、塵も積もればなんとやら、で半年ごとのAmazon様からの支払いは予想だにしない額がいつも振り込まれている。

 それは私の秘密の銀行口座に振り込まれるのだ。

 これは絶対に秘密にしておいてください。嫁さんにバレるわけにはいかんのです。

 バラしたらあなたとは絶交します!

 嫁さんがこの印税のことを知ったら、きっと家計に組み込め、と言い出すに違いないからである。

 まず「私が全額自由に使う」権利は剥奪されることは間違いないでしょう。

 それはこれまでの経験からわかります。この単行本でも名古屋旅行がどのような予算配分で遂行されたか、読んだ人は「我が目を疑った」とまで感想を送ってくださる方もいました。

 この秘密預金は全て「探偵小説関連の書籍」に注ぎ込まれています。

 昔の復刻本はニッチな客層なので、自然と単価が高くなるのです。

 月二万円の小遣いでは、とても欲しい本の全てはカバーできません。

 その乾きを満たしてくれているのが、kindleの秘密口座、というわけです。

 これを読んでいる貴方も、印税の使われる用途が、例えば私がキャバレーに行って、ドンペリを飲みながら、おぱーいの大きなお姉さんに乳首を羽ぼうきでチロチロされながら楽しんでいる、となれば

「二度と呉エイジなど応援してやるものか」

 ときっと思うことでしょう。それが人情というものです。しかし私の使い道は健全なものです。このブログの「日記パート」と「読書録パート」の読書録を継続するために必要な資金なのであります。

「後半は訳がわからないので日記パートだけ読んでいます」

 というお便りにも私はめげません。いずれ「論創ミステリ叢書完全攻略」と題して加筆訂正してkindleで出す構想も、捨てておりません。

 なのでどうぞ皆さま、健全な活動をしておる呉エイジに清き一票を!(最後がものすごく胡散臭くなっているが)

 ※

 さて、順調に読み進めている平林初之輔の評論だが、備忘録くらいのつもりが結構読み込んでしまい、小説と同等、それ以上の熱量を感じている。

「愛読作家についての断片」から。

 ここでも日本の作家で江戸川乱歩を評価しており、期待を寄せている。しかし手放しで褒めているわけではなく、名作「赤い部屋」「白昼夢」に対して「奥行きが乏しく仕上げが不自然」と手厳しい感想を寄せている。自身が「新青年」で「予審調書」を発表する半年前のことだ。

「ブリユンチエールの言葉について」では、平林が繰り返し述べる持論、探偵小説が低俗で非芸術的なもの、ではなく、それは作家の資質に左右されるのだ、というもの。

 材料ではなく天分の問題、と説いている。謎文学に対して作家の資質と天分が備わっていれば、探偵小説は芸術作品となる。これは後の乱歩の「一人の芭蕉の問題」にも通じる。

 松本清張の出現を平林初之輔ならどのように評価したであろうか。

 そして重要な評論が「探偵小説壇の諸傾向」である。平林がざっと見渡した当時の探偵小説壇の流れを書いているのだが、本格と変格以前の分類である「健全派」と「不健全派」で探偵小説シーンを分類したこと。

 乱歩、正史、不木などが不健全派で取り上げられており、正木不如帰、甲賀三郎が健全派で括られている。

 そして平林の眼が確かであったことを裏付けるのに、乱歩に対して「その独創を続けていれば早晩行き詰まる」ことを予言していることだ。更には「一度方向転換をして余裕のある姿勢を取らねばならない」とまで書いている。

 実際、乱歩の輝かしい初期短編群は、この時点で終息を迎えており、この論の後には短編では「火星の運河」そして八ヶ月後に「パノラマ島奇談」の連載がスタートしている。

 平林が乱歩の限界を読み取ったのか、高次元の創作に乱歩が疲れ、この論に絡め取られてしまったのか「一度方向転換をして余裕のある姿勢」という言葉が重く響く。

 ifではあるが、初期短編群のような熱量と密度では、乱歩は生涯不完全燃焼で終わった「本格長編」を書き得なかったことを思えば、この平林の「方向転換して姿勢制御」せよ、というエールは、筆を折らずに自分を納得させる、少し調子を変えた長編を書いても良いのだ、という執筆動機の格好の材料になったはずだ。

 あと問題だと思われるのは名称の響きである。怪奇、幻想や非現実的な世界、グロテスクなものを「不健全」という直接的な名称で呼び、そちらばかりに伸びていく当時のシーンに警鐘を鳴らしたのは良かったが、これも自尊心の強い乱歩が読めば、どういう化学反応を起こしたか。確か後年エッセイで不満を漏らしていたように思う。

 他の作家とて毎月の生産の中、もっと奇抜なものを、もっと奇怪なものを、という創作姿勢を、充分に萎縮させる効果を持ったことと思われる。

 戦前の探偵小説シーンを語るのに、この平林の評論は重要なポジションにあたることは間違いないだろう。

平林初之輔探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)

平林初之輔探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)