呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

甲賀三郎「囁く壁」を読む

 二十歳から四十三歳くらいまで愛煙家だった。

 禁煙して五年くらいだ。たまに煙草を吸う夢を見る。やはり、あの煙が恋しいのだろう。

 煙を燻らせながら、セクシービームで美魔女の瞳を射抜きつつ、両鼻からハの字に煙を出す。

 このダンディズム!

 でも、気付いてしまったのだ、煙草に束縛される愚かさを。深夜に煙草が切れてしまって、オロオロとコンビニまで買いに行く、何だか少し哀れな自分の姿を。本当はストレスを発散させる為に吸っていたはずなのに、人間様が煙ごときにがんじがらめにされて、それが逆にストレスになっているということを。

 毎日440円が浮く。これは大きい。一週間で結構高い本でも買える。

 煙草を否定する気は無い。愛煙家だったから。でも、やめたいけど中毒だからやめるの無理、こんな人は応援したい。

 私はこの本を読んで一発で止めた。

読むだけで絶対やめられる禁煙セラピー [セラピーシリーズ] (ムックセレクト)

読むだけで絶対やめられる禁煙セラピー [セラピーシリーズ] (ムックセレクト)

 

 アレン・カーの「禁煙セラピー」だ。まさか読書であの麻薬を止めることができるなんて思ってもみなかった。

 麻薬ではなかったのだ。「脳」が理解すれば、簡単に止めることができたのだ。この本は間違いなく私の人生を変えた一冊、と言える。

 止められたら苦労しねぇよな、お金も浮くし、中毒なんだから。そんな人に、ぜひ読んでほしい一冊だ。

 びっくりするけど「煙草吸いながら読んでください」って冒頭で書いてるからね。その通りに吸いながら読んで、最後に止めることができたからね。禁煙パッチでも駄目だった私が。

 何に価値観を求めるか、だよね。旅先でも公共の乗り物で移動中でもイライラしない。本も毎月たくさん買えている。客観的に見て、以前の私より良い状況。

 結果、今はハッピーだね。

 ※

 さて、今回は「囁く壁」を読み終えた。

 毎晩続けて読んでいるので、すっかり甲賀三郎の魅力にズッポリである。興味を持った方は、ぜひ下のアマゾンリンクからご購入願いたい。私の豚さん貯金箱に、アマゾン様からお一人様につき、おおよそ10円くらいがチャリンチャリーンと振り込まれるのだ。

 今回のお話はどんなのだろう。強引なプロットの甲賀マジックは健在なのか?

 以下、ネタバレがあるのでご注意を。

 酔っ払った土井江南、夜道を歩いていると、突然女性から声をかけられる。

「これを預かってくださらない?」

 来た。ラブストーリーは突然に。犯罪の発端も突然に。

 酔っている土井は無理やり紙袋を押し付けられる。女は消えた。そしてさらに歩く土井は、前に影の薄い和服の中年女性を見る。

 そして更に歩くと男がぶつかって来て、ポケットの預かり物の紙袋をスって逃げた。

 ここから恒例のプロット抜き出しで進めてみよう。

・逃げた男を追う土井、逃げ込んだビルに入る。

・姿はないのに変な声はする

・マッチをすると部屋には男女の遺体が!

・死体の側には盗まれた紙袋が!

・男の声は姿が見えないまま、どこからか響く「驚いたか」

 そうして私はこの作業を続けながら最後まで本編を読み終えて気が付いた。何と甲賀先生、解決編でこの私のプロット抜き出しの手法で、読み手に問いかけているのだ。

 もちろん鳥肌たちまくりのミラクル強引解決が待っていた。そこは期待を裏切らない。壁からの声、その場所、男女の遺体、それが偶然一箇所に集まったための物語であるからだ。

「それにしてもこの偶然! 天意があるのではないか!」

 三郎、それを貴方が言ってしまうのか!(笑)

 一歩ずつ改良はされているが、これも凄い手法だ。ぶっ飛んだ偶然の物語を書いておいて「凄い偶然」と作者自身が言ってしまうのだから。これはメタ構造か!

 で、面白くないか? と聞かれたら、これが「面白い」となるのだ。だから「甲賀先生を責めないで!」となるのだ。

 

1931年(昭和6年)5月「文藝春秋オール読物号」

甲賀三郎探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

甲賀三郎探偵小説選 (論創ミステリ叢書)