さて、今回は「真夜中の円タク」を読み終えた。
この作品は現実に起こった事件「玉の井バラバラ殺人」をベースに、探偵作家である土井江南が推理を披露する。という作品である。
玉の井バラバラ殺人の説明を被害者A、加害者B、という表記も味気ない、なので登場人物を置き換えてご紹介したい。
私と相棒の漫画家、金平守人の名前を借りて紹介を進めていこう。
〜寸劇 だいぶ脚色した玉の井バラバラ殺人〜
「うわぁ、なんだこれは!」
『お歯黒どぶ』と呼ばれる汚水で満ちた堀。そこから浮き上がった包みを開けてみると、切断された死体「頭部」「胸部」「腰部」が出てきた。
すぐさま捜査本部が開かれたが、捜査は難航して迷宮入り。
しかし捜査員の記憶を頼りに地道な聞き込みを続け、容疑者を特定し尋問、遂に犯行を自白した。
容疑者である金平が、被害者の呉を殺害した動機の自供が以下である。
街の片隅で空腹の為うずくまっているいる呉に、極貧漫画家、金平が同情して声をかける。
ひもじい様子に金平は、呉にパンを与えた。
「ありがとう、金平、実はな、ワシ実家金持ちやねん。今はこんな遠方まで来てしもうて一文無しやけど、きっと恩返しするからな」
ここで金平の瞳がキラーンと光る。親切にしておけば財産のおこぼれにありつけるかもしれない。金平は母、兄、そして妹との貧しい四人暮らしであった。
金平は呉を狭い家に連れて帰る。
家族は猛反対であったが、先行投資だ、と家族を言いくるめ、出戻りの妹に仮の内縁関係まで結ばせた。財産分与を見越してのことだ。
呉は体力が回復してくると、どんどん横暴になっていった。
「おい、呉、病気で寝ているオカン、弱ってるけどどういうことや」
「食欲なさそうやから、飯捨てても勿体無いし、全部食べてやった」
「お前、鬼か! 自分が食べたいだけで勝手に解釈したんとちゃうんか?」
別室では妹が泣いている。様子を察した金平。
「おい、呉。まさかお前、妹に手を出したんとちゃうやろな?」
「ヤッた(笑)」
「『かっこ笑い』とちゃうぞ、おんどれ。貴様鬼畜か!」
「友達の妹と禁断の恋、燃えるやん」
「お前、恩を仇で返す気か?!」
「金平、実際のところお前に古い恨み節があるねんぞ、成人前、お前のいとこ、あの可愛い子ちゃん。桜木ルイに激似の、あの子当時彼女おらんかったワシが、ぜひ紹介してくれ、って頭下げて頼んだのに、お前、ガン無視したよな」
「おい、呉、不用意に好き勝手身内のこと書くなよ。ウチのオカン、たまに検索してワシの創作活動チェックしてるねんから。こういうのも読まれたら困るんや」
閑話休題、鬼畜の呉は金平の妹(桜木ルイに激似)と一つ屋根の下で暮らすうちに性衝動を抑えきれなくなり、思い切りやってしまった。
持て余した金平母は、旅費を呉に与えて、実家の財産を少し持ってきてくれ、我が家は貧乏で困っている、と頼み送り出す。
だが、呉は、その旅費を交遊費に全て使い切ってしまい、手ぶらで帰ってきた。
怒りで問い詰めると「実家が金持ち」というのは真っ赤な嘘。
「出て行け」コールにも全く動じず、家にある食べ物をひたすら食べる毎日。
これに松田聖子の親衛隊長、長いハチマキに法被姿でおなじみのヤンキー金平兄ちゃんが激怒、呉の殺害を決意。
夜の公園に呼び出して、スパナで頭を殴打。その後持ち運ぶため、兄弟で協力して遺体を切断。紙袋に包んでお歯黒どぶに捨てた、これが経緯であった。
脚色はしたが、大体こんな感じの「玉の井バラバラ殺人」作中で土井江南は自身の推理を述べる。
後半、本作も脚色が入り、土井江南が命の危険にさらされるシーンがある。すっかり土井江南のファンになってしまっている私は、気が気ではない。
なんとか一命はとりとめて作品は終わる。
土井江南のシリーズを集成とあるので、ここまで書いてきたレビューが土井物の全作ということになる。
あぁ、誠に愛すべきキャラクター、土井江南。もっと読みたかった。
1932年(昭和7年)5月「文学時代」