呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

松本泰「毒死」を読む

 ジムでよく目の合う「まゆゆ似」の奥さんのことを、ここやツイッターで何度か書いている。

 需要があるのかどうか分からないが、自己満足全開で進展を書かせていただく。

 伊達に探偵小説を長く読んでいるわけではなく、偏ってはいるだろうが、自分なりの推理、観察を披露したい。

 私が昨日で49歳、その女性は10歳くらい下だろうか、30代後半のような感じ。髪はセミロング、色は白い。鼻筋が通っていて、ものすごく小柄、155センチくらいではなかろうか。

 体型はスリムで胸もAカップだろう。で、今日気付いたのだが、指輪は左手の薬指ではなく、中指であった。前は距離があって見間違えていたのだ。

 下手をすると、独身の可能性もある。綺麗で可愛くても婚期を逃す女性はいる。

 出会いを求めて、または美を磨くためにスポーツジムへ通っているのかもしれない。

 その女性が気になり出してから、ジム内で何度も目が合った。

 で、前回、向こうは近寄っては来るのに、前日のように目を合わせてはくれず、私は完全に向こうの手のひらで転がされて焦らされている、とツイートし、苦し紛れにウルトラ怪獣ジラース」の画像を貼ってツイートした。

 今日も一つ置いてお互いトレーニングマシーンで、距離を保ちながら筋トレに励んでいた。

 私は小休憩でジムの端の休憩ゾーンにあるベンチに座ってタオルで汗を拭いていた。

 すると、まゆゆ似の女性が、私の一つ隣のベンチに座って休憩を始めたのだ。

 高鳴る動悸。

 これは話しかけられるのを待っているのだろうか? 色々な考えが頭をよぎる。

 しかし、私には勇気が全くなかった。

 5分くらい経過しただろうか、お互い横目で存在を確認しながら、私はスマホでメールチェックをしている風を装っていた。

 とその時、向こうはしびれを切らせたのか、正面にいる男にいきなり挨拶した。

「カバン邪魔になってませんか?」

 と話しかけたのをはっきりとこの耳で聞いた。

 相手の男は20歳くらい。ものすごくデブで、ガリガリガリクソンにそっくりである。喋りかけられた男は、デレデレして、ものすごく分かりやすい反応を示した。

 そりゃ、あんなに可愛い女性にいきなり声をかけられたら嬉しいだろう。

 その男は「筋トレですか?」と返事をした。そこで自分が太っているので自虐的なギャグを挟んだのだろう。まゆゆ似の女性は手を叩いて笑っていた。

 君はそんな男と会話をして満足なのか? 私の心は大いに乱れた。

 高校の時、好きな子を遠くから見つめ、その子が話し上手な男子学生と盛り上がるのを見せつけられる、あの懐かしい感情。嫉妬? よく分からない感情が渦巻いていた。

 ガリクソンは頬を染め、嬉しそうに喋り続けている。

 私は筋トレに戻った。もしここを読んでくれている人の中に女性がいらしたら、これがどういうことなのか、ご教授願いたいくらい。みたいなことを考えながら筋トレを続けた。

「カバン邪魔になってませんか?」

 をこっちに言ってきたら、どうなっていただろう。

 グッと距離が縮まってしまったかもしれない。それは私の本意なのか?

 少しだけ平凡な日常にドキドキしたかっただけじゃなかったのか?

 その後、二人は一緒にトレーニングエリアから出て行ってしまった。ライン交換くらい、済ませたのかもしれない。

 さて、今回は「毒死」を読み終えた。

 とても短い一本。真相に踏み込んでいるので、未読の方はご注意を。

 これはもう「探偵小説」と言うカテゴリーに加えるのもどうか、と思える犯罪譚である。

 が、やはりこの時代の探偵小説であるし、江戸川乱歩も泰先生のことを類別しにくい作風と言うのが頷ける一本。本格でも変格でもないのだから。

 商家に居候している主人公、気持ちを寄せるその家の娘、台所のネズミ対策のために、婆やが猫いらず(毒饅頭)を用意した、という前振りがあり、病気がちで寝込んでいる当主が「甘いもの好き」で、医者から禁止されているのに隠れて甘いものを探しに台所に隠れて忍び込む、というフリも貼られる。

 ここまでカードが揃えば、当主が「毒死」する展開なのだな、と読めるのだが、泰先生、その毒殺事件を全く解こうとはしない。

 あっさり風味の傍観者視点で作品を処理する。

 主人公が突き止めたのは、家族中が証言する「当主は猫いらずを隠れて食べて死んだのだ」という証言が嘘であり、主人公が掃除中に溝に落とした一個を含め、全量三個が残っていることを知ること。

 家族の誰かが率先して嘘をつき、急死した当主の死を「猫いらずを盗み食いしたせい」にすり替えてしまっている事実だ。

 この謎を本作は解かない。誰かが殺したのだな、という余韻だけ残す。んー、どうなのだろう、そういう決着のつけ方も個性と言えるか、味っちゃあ味か。

 そして主人公は、その家の娘と恋に落ち、駆け落ちのようにして新生活へ旅立つのだ。

 希望を持たせる終わり方。

 なので、構造的には「普通小説」の部類になるだろう。犯罪という煙で燻製にしたような。

 

1926年(大正15年)5月「探偵文藝」

松本泰探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)

松本泰探偵小説選〈1〉 (論創ミステリ叢書)