呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

松本泰「詐欺師」を読む

 日曜日である。嫁さんと数日前からこう着状態が続いていたのだが、先ほど嫁さんが

コストコでも行くか」

 の一言に反応してしまって、つい頬が緩んでしまった。

 そのまますぐに能面の顔に戻れば良かったのだが

「じゃああそこでホットドックと今日はハーフピザ、食べてもええか?」

 と聞いたら「食べたらええがな」と言うので、私は刀を納めた。

『食べ物』と『行く場所』に釣られた格好にはなったが、いつまでも無視するのも大人気ない話ではないか。

 いつもは『どっちか一つにせんかい!』と必ず怒るので、嫁なりに反省の色は示しているのだろう。

 コストコのホットドックは最高だ。ケチャップかけ放題、マスタードかけ放題、玉ねぎの刻んだやつ乗せ放題、緑色の謎の物体乗せ放題、一緒に付いてくるドリンクも飲み放題である。さすが自由の国アメリカ、思い切りアメリカンである。

 行けば必ず食べて帰る。なんせ誰でも入れるマーケットではないのだ。買い物をするには入会手続きがあって、年会費を払わねばならない。

 すごく強気のスーパーである。で、ゆったり買い物ができるか? と思ったら、これが結構混雑しているのだ。

 近くのスーパー「マルアイ」や「ヤマダストアー」が年会費製のシステムにしたらどうだろう。速攻で閑古鳥が鳴くことであろう。

 そこでしか買えない商品ラインナップも魅力の一つだろう。

 下で嫁さんが出掛ける準備を手伝え、と叫んでいるので、今回はここで失敬。

 ※

 さて、今回は「詐欺師」を読み終えた。

 おやっ? 二巻に入って調子が変わったような読後感。成長か? とも思ったが、収録はだいぶ巻き戻されて大正12年の「新青年」である。

 で本作、これまで散々「薄味」と評してきた松本泰作品であったが、これは味付けがなかなかよろしい。

 質屋と客の話で、ここから先は真相を含めた話をするので未読の方はご注意を。

 客が質屋に着物を持ち込んできた。つづらから出してきた着物で「四百円にならぬか」と交渉してきた。

 店の主人は「二百五十円が限度だ」と突っぱねる。客は怒って帰って行く。

 番頭は主人の顔色を見る。すると店主は自信満々に「どこも四百円なんて出さないさ、すぐ戻ってくる」と言う。するとその通り客は戻ってきた。

「どこも無理だった。二百五十でいい」と言いながら、つづらを下ろした。

 亭主は金を払う。客は急ぎ足で出て行く。

 番頭がつづらを確認すると、先ほどは中にあった着物が今度は全部ゴミにすり替わっている。

 読者はここで「タイトルはここで活きるのだな」と思う。

 店主は落ち着いて「中身を確認して金を払わなかったこちらにも責任はある」と言い、警察にも通報しなかった。

 ここで泰先生、どんでん返しを仕掛けてきた。「タイトルはそっちに効くの」と読後口から出た。

 そこまでは未読の方の楽しみを奪わぬよう伏せておくことにしましょう。

 

1923年(大正12年)4月「新青年

松本泰探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)

松本泰探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)