呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

浜尾四郎「富士妙子の死」を読む

 会社に後輩宛の荷物が一時期毎日届いたことがあった。

 後輩に聞くと、どうも中古レ◯ズらしい。聞けばセミナーに行き、中古レ◯ズを海外に転売してボロ儲けする仕組みを教わってきた、らしい。

 その時点で私は「思いっきり詐欺やん」の匂いが濃厚であった。

 で「儲かるのか?」と聞いたら、夢のような数式と結果を披露してくれた。

 だいぶ経って、レ◯ズのその後を聞いたら、後輩は瞬間で顔色が変わり、項垂れて何も話さなくなった。

 分かりやすい男である(笑)

 私は軽く説教してやった。そんな儲け話、人に教えるわけがない、と。本当に儲かる話は他人に教えない、と。

 そのセミナーは有料だったのか? と聞いたら、結構な額の受講料であった。儲かったのはそいつだけではないか!

 私は後輩に「入った給料の支出を抑え、地道に残すのが一番堅実だ」と諭してやった。

 最近、またその後輩の目が輝きだしたので、聞いてみたら、家に封筒が届いて(向こうのカモリストに載ってるだけやん!)新しいサイドビジネスにトライしてみる。と意気込んでいた。

 まぁ、自分が手にした給料だ。何に使おうが自由だろう。

 それでも想像はしてしまう。後輩は怪しい業者から見たら、カモがネギ背負ってキャビアのネックレスとフォアグラのブローチをつけて、フカヒレのマフラーして自ら鍋に寝そべる、ように見えるんだろうなぁ、と。

 さて、今回は「富士妙子の死」を読み終えた。

 この短編、ミステリのコーナーがある古書店でよく見かける「全二巻 浜尾四郎全集」には収録されていない作品なのだ。全く油断ならない。

f:id:Kureage:20180615214524j:plain

 久しぶりに本棚から引っ張り出してみたが、目次には各短編のページ数も書いていなくて、劣悪な検索性。

 浜尾四郎を攻略するには、この全集と論創ミステリ叢書を押さえねばなりませんよ。

 で、本題。この「富士妙子の死」何故埋もれていたのか、よくぞ発掘してくれました! と言いたくなる佳編なのだった。

 もうひたすらリアルに、重苦しくのしかかる堕胎の殺人。

 男と女は共に教師。恋に落ち、婚前交渉で妊娠が発覚する。

 今でこそ「できちゃった婚」は見慣れたものだが、当時は深刻な事態だったんだろうなぁ。

 男は堕胎目的で毒薬を入手する。そしてそれを女に飲ませる。

 女は致死量を飲み死亡、怖くなった男は鍬で木の根元を掘り返し、埋めて逃げる。数日後、犬を散歩中、犬が人間の腕をどこからか咥えてきて犯罪が発覚。

 物語は「殺意があったか・なかったか」という各証言を並べながらの問いかけで進んでいく。 

 男は地元で裕福な令嬢との見合いが進んでおり、これだけでも犯行動機は十分。証言は相当ゲスな言い逃れにしか聞こえてこない。

 前半の小説部分を浜尾四郎は意外とあっさり片付け(デスパレートした愛憎劇を書き込めば、違った味わいの作品になったことだろう)、あとは証言と読者に選ばせる二択、という構成。

 解説には「本格味が強い」とあるが、私の心にはミステリ趣向よりも、妊娠の告知からきた殺害、という動機が残酷で非情で重すぎて、どんよりと心を曇らせるのだった。

 

1929年(昭和4年)10月「朝日」

浜尾四郎探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

浜尾四郎探偵小説選 (論創ミステリ叢書)