何故ジムに通いだしたのか。それはやはり「ケンシロウ」のような身体になりたいから。というのは表向きで、実際のところはどうなのだ、呉エイジよ。
「ちょっとモテたい」
みたいな邪な気持ちを持っているのではないのか?
Tシャツから盛り上がる胸板、太い二の腕。それらは男性が女性の「巨乳」を見て視線が釘付けになるように、女性もまた男性の筋肉のパーツを見てときめくから。みたいな事を考えているのではないか?
筋肉は付いたが、ウエスト周りの改善、これがなかなか難しい。
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リサイクルショップで買ったジョーバ
この三つを駆使してはいるが、なかなかボディビルダーのような腹筋にはならない。数センチ、細くなっただけである。
身体を改善する前に、女性に目移りしてしまった。「まゆゆ似」の彼女のことである。
私は勝手に脳内で「ジムかの」と認定し、彼女に見られても恥ずかしくないボディメイキングをすることに決めた。
まだ一言も、挨拶すらできていないのだが
・20代後半から35までっぽい
・生活に疲れた感じは出ていない。溌剌とした雰囲気。
・結婚指輪はしていない。
・でも夜の8時から10時くらいまで、ほぼ毎日ジムにいる女性って、どんな種類の人間なのだろうか
・時間に自由がある。婚期を逃した箱入り娘。
・結婚のために身体の線を維持するために来ている、とか?
・実は結婚していて、だが倦怠期かセックスレスで、その夜の時間外出していても旦那は干渉しない冷めきった夫婦、とか。子供がいれば、ほぼ毎日来ているから育児はない、と見て良い。
・遠くから眺めていると、とても内気な性格っぽい。誰にも話しかけない。黙々と一人でトレーニングをしている。
・それでも数人の男性からは休憩エリアのベンチで声をかけられている。
・多分私の熱い視線にはとっくに気付いている。
・ガリガリガリクソン似の男を含め、ジムに来ているデブオタの人気は高く、彼女が休憩に向かうと、ゾロゾロとベンチへワザとらしく付いていく。
亀のような歩みで、今後も経過を報告していきます。
※
さて、今回は「手」を読み終えた。
ここまで読み進めて読後「イイね!」と声が出た。いや、あの松本泰の奥さんである。正直読む前はそれほど期待していなかったのだ。
だが、文体、ユーモアー、構成力、短編のコアとなるアイデンティティにも自覚がある。大正時代の女性作家と思って舐めていた。
ものすごくモダン。作品の語り口、構築力も侮りがたい。
内容に踏み込んでいるので、未読の方はご注意を。
裕福な兄を訪れる画家の友人、往来で人が騒いでいる。「魔の踏切」でまた事故が起きたようだ。
轢死体を見に、人が集まる。野次馬の一人が「裕福な兄の弟だ」と声を上げる。
慌てて現場に向かう二人。警察に質問され、兄は「弟に間違いない」と返答する。
その時、草むらに落ちていた切断されている「手」これを拾い上げた時、画家の友人は違和感を覚える。
ここまで、当時のシーンを意識した見所ポイントがいっぱいである。まず「魔の踏切」という掴みが良い。そして轢死体を見に人だかりができる、という猟奇趣味。
画家は「手」に違和感を覚えたのだが、これが画家特有の観察眼で、人の手には顔についで表情がある。と唱える。
裕福な兄は死体を引き取って、檜の棺桶で盛大な葬式をあげる。周りが噂する。「仲が悪くても立派な葬式だな」「俺たちの時は丸桶に折りたたんで入れられるんだ」「まだ入る余裕があるから入って一緒にあの世の行って来い(笑)」みたいな雑音が挿入されるのだが、これらがしっかりと伏線になっているしたたかさ。
奥さんは凄いぞ。どうした松本泰!
画家は兄に自説を述べる。あの「手」は見慣れた弟さんの「手」ではなかった。もしかしたら弟さんではないのかもしれないね。
青ざめる兄。翌日、兄は「魔の踏切」で自殺を図った。幸せな兄に自殺の理由は見当たらない。世間は「弟が呼んだのだ」と噂する。この真相の前に一旦挟む「真の動機」を高める効果も心憎い。
画家に兄からの告白書簡が届く。穀潰しの弟と口論の末絞殺し、不明の轢死体が出たのをいいことに、必要以上に大きく豪華な棺桶を用意させ、そこに二体の死体を入れ埋葬した(伏線はここで活きた)。君に手のことを指摘され、今後秘密を守り通せる自信が無くなった。
そして弟がグレた原因も書かれていた。それは弟の愛する女性を財力で奪ったためであった。
破綻のない完璧な物語の構築力。この少ない枚数で。当時の男性作家に決して引けを取らない作品である。
最後の兄の一言も余韻を生み、見事に着地が決まっている。
ここまで読んだ中で松本恵子のベスト、である。
1927年(昭和2年)1月「サンデー毎日」