呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

8ミリフィルム

 読書の時間が取れなかったので、本日は日記のみの更新です。

 マイカー通勤中目にする街並み。何年シャッターが下りたままなんだ、と思わず呟いた角のタバコ屋。昔は小さい本屋だったなぁ、痕跡が残る半分店舗、半分住宅の家。

 風景なんて当たり前で、いつまでもある、と思っていた。最近までは。

 高校三年の頃だったか、相棒の金平と8ミリフィルムで映画を作ろう! と盛り上がったことがあった。ビデオではない。フィルムである。

 まだVHS-Cハンディカムビデオが普及していない時代(VHSテープ用の大型機器はあった)の頃の話だ。

 リサイクルショップ、という気の利いた店はまだなく、二人で質屋に行ってビデオと映写機を割り勘で買って帰った。今から三十数年前のことだ。

 そして街のカメラ屋に行ってフィルムを買う。これが結構高かった。撮影時間はわずか五分である。

 今のスマホのなんと素晴らしいことよ。動画も写真も、ほぼ取り放題である。現代の若い子が羨ましい。

 なので、必然、撮影も貧乏性のようになって、なかなか構えるだけで撮影ボタンを押さない。

 今は住宅地になっている原っぱで、私のバック転シーンと、金平の背中にシャツを仕込み、その間に爆竹を入れて特撮シーンを撮影したことを覚えている。

 あとで「痛かった」と金平からクレームが来たのもいい思い出だ(笑)

 残りのフィルムは何を撮ったか、余った時間を適当に風景などを撮ったかと思う。

 撮影が終わったらカメラ屋に行って現像してもらう。これもかなり費用がかかったと思う。一万円くらいかかったような。

 レシートを見て二人でひっくり返った。

 そして一週間くらいかかったのだ。なんというのどかな時代。

 そうして受け取りに行って、感動の撮影会である。部屋を暗くし、スクリーンは金欠だったので、白い壁に映写したと思う。

 ピントも甘々でズームも無いに等しい。それでもはしゃいで何度も観たものだった。

 予算的に「これ以上はできない」という結果が出るのは当たり前のことであった。カメラも映写機もゴミになった。

 それから間も無く、民生用で「ブレンビー」というハンディカムが大ヒットし、撮影は磁気テープの時代になった。

 後年、だいぶ経ってから8ミリフィルムの話題が出た。

「何処いったっけ?」

 互いの実家を割としつこく探してみたが見当たらない。まぁ、20年もお互いの親が物置の肥やしにしておくとは思えない。きっとある時期に粗大ゴミで捨てたのだろう。

 機械は捨ててもフィルムだけは残しておいて欲しかった。

 そこにはビデオ以前の大昔の街並み。まだ営業していたタバコ屋も、街の小さな本屋も、よく行った駄菓子屋も、シャッター商店街など無縁な街の活気ある店の佇まいも、親父の乗っていた古い車も、一瞬ではあったが映っているはずであった。

 かけがえのない郷愁。

 もし今フィルムが出て来たら、二人ともホロリとくるかもしれない。

 若い人に言っておきたい。今はタダ同然なんだから、街並み、風景、生活、友をたくさん撮影しておきなさい。

 今の当たり前が、後々一番の宝物になるから。

 

Bee トイデジタル8mmムービー ブラック

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