昨日、次男ちゃんが入院した、と嫁さんから連絡があった。
仕事中にメールを見たので、気になりながら帰宅すると、仕事中に熱中症を起こして倒れたらしい。
そのまま入院を勧められた。
点滴を二本も打ち、それでも血液検査の結果は芳しくなかった。
この春から就職し、肉体労働に就いた次男ちゃん。
きっとがむしゃらに働いて、水分補給のタイミングを誤ったのだろう。
手も足もシワシワになり、声もかすれてほとんど会話はできなかった。
二日の入院を勧められた。
熱中症は命に関わる。上司も付き添い、謝罪を受けた。
給水設備の充実と、猛暑日の監督もお願いしておいた。
病院に着替えを運び、一息ついたのは午前様。
若いから回復も早いだろうが、暑さからは逃げられないので、次男ちゃんには「コツ」を教わってもらいたい。年配の人もいるのだ。力の抜き加減、水分のタイミングなど、きっとあるはずだ。
まだまだ暑い日が続きます。皆さんもどうぞ御自愛ください。
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さて、今回は「懐中物御用心」を読み終えた。
出典のはっきりしない翻案物らしいが、松本恵子自体の創作部分の比重は、決して少なくはない、と思える出来だ。
田舎から出て来た男は東京の街並みに目を奪われる。しかし浮き足立たぬよう男は常に神経をとがらせていた。
時間を聞いて来た老紳士に対して「自分の金時計を盗もうと狙っているのでは無いか?」と勘ぐったり、と。
田舎者の誇張された愚鈍さと実直さ、途中出会った酔漢にもたれかかられた時に「財布をスられた」と思い込んでから絡まる犯罪譚。
隠し場所トリックがメインの種としてあるが、翻案部分はここだけだろう。
あとは伸び伸びと、愛すべき田舎者と、いずれ結婚する田舎に残して来た未来の花嫁との旅行のための下見と、スられたと思い込んでいた勘違いも解決もユーモアたっぷりに書き込み、大団円で幕を閉じる。
総評になるが松本恵子は収穫だった。モダンな大正時代の女性の躍進の息吹が感じられ、文章もユーモアも古臭く無く、きっと才女であったことだろう。
話のタネだけに終始する探偵作家もいるが、松本恵子はキャラ設定や装飾の部分まで目が届き、短編のあり方についても独自の美学を持っていた。
タネが弱くても文章や物語で読ませるのである。
1926年10月「探偵文芸」