呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

小酒井不木「現場の写真」を読む

 宣言しよう。年内にたるんだ身体を引き締めることを。

 私の決意は固かった。プロテインと筋トレで二の腕と胸板は結構立派になった。だが、ウエストがそのまんまである。胸板が腹の脂肪を吸い上げて、代謝しながら分解してくれるものとばかり思っていた。

 なので筋トレは継続する。そしてこれまでは筋トレを終えたらジムでシャワーを浴びて帰っていたのを、半月前から3キロランニングマシンで走ることにした。

 デブは取り敢えず走れ! ということだ。走るのは大嫌いなのだが、結局これが一番効くのだろう。良薬口に苦し、ではないが、嫌いなことだ、私の贅肉が脳内に侵入し「ジョギングだけはやめちくりー」と私の意識をコントロールしているに違いない。

 いや、走る。ジョギングする。そして贅肉を殺す。滅亡の危機に怯えるがよい。

 そんな意識で家に帰ってからも二階で腹筋ローラー。

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  快調にトレーニングしていたら獣のような足音とともに嫁さんが上がってきた。

床ゴロゴロとやかましいわ!

「別にステレオガンガン鳴らしてるわけじゃないから、そこまでうるさく言うなや」

「床の音に奇声もあげてなんやねん!」

「声響いてたか?」

「一体何回めでそんな苦しそうな声出るねん」

「十回め」

フッ(鼻で笑う)

 嫁さんはそのまま降りて行きました。なんたる侮辱! これは何ハラと言うのでしょうか?

 それにしてもまゆゆ似の女性が全然ジムに来ない。本当に辞めてしまったのか? お盆前で仕事が忙しいのか? それを祈るばかりだ。

 話しかけられずにごめんね。もうちょっと身体を絞ったら挨拶くらいはするね。この贅肉が取れたらね。

 俺に勇気がなくて本当にごめんね。

 陶酔した気分を落ち着け、アップ前に最初から読み返す。まゆゆ似の子に対して、これ、完全にストーカーやんけ! 怖い怖い!

 さて、今回は「現場の写真」を読み終えた。

 前回の「玉振時計の秘密」の翌月の作である。精力的な小酒井先生。

 短めでシンプルな本格推理モノである。

 冒頭、事件もなく暇を持て余している塚原俊夫探偵。「何か事件でも起きないかな」と、相当な欲しがり屋さんである。

 お馴染みのPの叔父さんが未解決事件の相談にやってくる。この辺はご愛嬌。少年少女読者は「子供なのにすごーい」と思うわけだ。

 株屋が自室で刺殺された。容疑者に同居する手代が検挙されている。が、手代は犯行を否認。その時間は主人の言いつけで、遠方まで手紙を運んでいる。相手方は生憎留守ではあったが。

 塚原俊夫くんは現場写真を見る。ここで色々なことに気付くのだ。

 そして「犯人は手代ではない」と言い切る。読者として他に登場人物がいないのに、どうやって話を落とし込むのだ? とヒヤヒヤしながら読んでいると

・被害者は太っている

・布団の上で死んでいた

・風呂上がりな様子

・後ろから抱きかかえられ心臓を刺殺。よって犯人は左利き

・現場に血のついた足跡はない。返り血を浴びていない。よって絶対に後ろから襲いかかった

 そうして塚原俊夫くんは単身聞き込みに出かける。残された大人はポカーンとしている。

 ここから犯人を書くので未読の方はご注意を。

 相当ツッコミどころはあるとは思うが、被害者は風呂上がり、布団横が殺害現場、この写真を見て、塚原俊夫くんは「被害者は按摩を頼んだのではないか?」と推論する。

 そして夜の現場付近を張り込み、杖を左手に持つ按摩に飛びかかる。

 そして警察の尋問で全て自白。

 もし犯人がレインコートなどを着て前から刺せば右利きの犯行であるし、玄関は空いていたのだから、それは按摩のため、ではなく押し込み強盗が入った可能性も否定はできない。

 それでも玄関に破壊された跡がないことから、やはり子供に向けては「按摩さんのために鍵をかけておかず招き入れたためだよ」ということになるか。

 短い枚数、そして内容に直結するタイトル。破綻のない短編である。

 

1927年(昭和2年)8月「少年倶楽部

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

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