本が届いた。
国書刊行会の「探偵クラブ」シリーズだ。このシリーズはこの当時、戦前の探偵作家が新刊書店で全く買えなかった時代の飢えを癒す、素晴らしいシリーズであった。
甲賀三郎、大下宇陀児、大阪圭吉、など、私のハートを鷲掴みのラインナップであった。井上良夫など「よくぞ纏めてくれました」と拍手喝采であった。
そうして私の悪い癖、興味のない作家は後回しで、結局歯抜けの本棚が完成する。
今になると抜けが気になって仕方がない。
なので、あと数冊、収集を再開し、コンプすることにした。
第一弾がこの「城昌幸」「昌幸」で「真田」と返せばその人は歴史好き「城」と返せばその人は探偵小説好き「湯原」と返せば、テレビ好きなただの昭和のオッさん、という綺麗な三段落ちが決まる(三つめはツイッターのリプライからの拝借ですが)(笑)
一本目「脱走人に絡る話」を読んでみた。城昌幸は「短めな話を書く幻想文学寄りの人」というイメージであったが、なかなか良い。
秘密結社から脱走する者は消される運命にある。というテーマの三本からなる小編集。渇いた死とロマンが融合する三本目が良かった。
※
さて、今回は「自殺か他殺か」を読み終えた。
冒頭からお馴染みになった「何か事件が起こらないかなぁ」という「欲しがり屋さん」のやり取りから、Pの叔父さんが事件を相談しにくる、という掴み。
解説ではこの短編、他愛のないトリックで密室風の犯行を扱っている。という素っ気ない扱いなのだが、ええーっ?! 私は結構感心して読んだのだが、私のミステリ脳が弱い、ということなのだろうか?
まず自殺か他殺か分からない事件の依頼、高齢の金貸し老人が、居間の欄干で自殺。証拠は何もない。机の上には般若心経が置かれ、覚悟の自殺、とも取れた。物語としては「自殺」では面白くない。「他殺」へどうやって持っていくかが作者の腕の見せ所。
被害者の机の引き出しには遺言状の写しと、ビタミンA。
これで少年探偵、塚原俊夫くんはピーンとくる。
アマゾンでググっても、なかなか「ビタミンA」は出て来ない。私もサプリ好きで「カルシウム」や「ビタミンC」をDHCで買っているのだが、姫路駅のDHCショップは綺麗なお姉さんがいるので、それも目当てに買っているのだが(脱線)
「ビタミンA? はて、あったかな?」
サプリ好きな私でもちょっと思い浮かばなかった。店頭では売っていない通販用のビタミンである。サプリの中でも大正時代ではメジャーであったかもしれないが、現代ではマイナーな部類だ。
塚原俊夫くんはビタミンAの効能に着目し、眼科の領収書が机の引き出しに入っていることを合わせ被害者が「とりめ」であったことに気付く。
「とりめなのに夜、見えない般若心経を読むはずがない、これは偽装だ!」
と見抜くのである。ここはなかなか良い。なんで解説はあのように素っ気ないのか。
そうして鍵のかかった部屋での偽装自殺。同居の老婆は犯人とは思えない。ここからの犯行の推測、そしてコロンボ級の引っ掛け尋問で、一年間叔父に会っていない、という犯人の矛盾を突く痛快な解決。
ここまででベストかと思うのだが、いや「好みの形」ということをメモしておこう。
1927年(昭和2年)11月「少年倶楽部」