呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

小酒井不木「深夜の電話」を読む

 私はジュンク堂から買って帰った「ブツ」を、嫁さんに見つかる前にザイオン(屋根裏部屋)に搬入しようと家族の留守の時間を狙って帰宅した。

「これでよし、と」

「待たんかい!」

 私の背後に心の中の管理人であるドッペルゲンガー(もう一人の私)が立ちはだかる。

「また買い物したんかい」

「はぁ」

「お前なぁ、アリとキリギリスの話知ってるやろ。好き放題買ってたらなぁ、それが癖になって、老後苦しむことになるんやど」

「はい、わかってます」

「口だけやないけ、最近河出書房の「レトロ図書館シリーズ」確か買ったよな」

「はぁ」

f:id:Kureage:20180806223927j:plain

「ほんで、ジムでジョギングのBGMいうて、吉川晃司の初期アルバム七千円強も出して買ったよな」

「はぁ」

f:id:Kureage:20180805214825j:plain

「それから何日経ってるんや」

「連日です」

「それでエエと、人生そんな感じでエエと君は思ってるんか?」

「いいえ」

「君の小遣いは無尽蔵か?」

「いいえ」

お前はアラブの石油王か?

「んなアホな」

「誰に向かって口聞いてるねん!」

「この前見たときに売り切れでしたから。今日見たら入荷されてまして、逃したら本屋から消える、思いまして」

「自分、しょっちゅうそんなこと言うてるがな。なら本屋の棚、全部買わんと気が済まんのか?」

「いいえ」

「君は何か? 強迫観念か何かか?

「そうではないと思います」

「何を買ったか見せてみぃ」

「はぁ」

f:id:Kureage:20180806224444j:plain

 

小倉優香ファースト写真集 ぐらでーしょん

小倉優香ファースト写真集 ぐらでーしょん

 

「な! 結局買ったんかいな、小倉優香ちゃんの写真集」

「はい。奥付見たら3刷でした。新人のグラビア写真集なんて大半が初版で消えていくと思いません? この娘、デビュー写真集で短期間のうちに3刷ですよ? 私の目に狂いはありませんでした。本物です」

「裏表紙も見せてみぃ」

「はぁ」

f:id:Kureage:20180806224707j:plain

「めちゃくちゃ可愛いがな」

「だしょ? だしょ?」

「何調子に乗ってるねん。散財が過ぎるんとちゃうか?」

「大体この手の「くしゃっとした笑顔の娘」「三日月のような笑顔の目」の娘は経験上大多数が貧乳なのですが」

「何の経験上や」

「人生の、です。この娘はこんな「ホニャーッとした笑顔」なのに暴力的な巨乳なのです」

f:id:Kureage:20180806225003j:plain

「確かにロリータフェイスなのにやな」

「何十年もグラビア写真集を買ったことのない伯父様に買わせてしまう。そんなパワーがこの娘にはあるのです」

「最後に買った写真集は何や?」

「多分、河合その子かと思います」

f:id:Kureage:20180806225240j:plain

※(ザイオンの本棚より中継)

「よく財布にお金残ってたな」

「秘密の印税カードを使いました。何故か最近また、これが売れてまして」

「真面目な就活生が参考にしようと間違って買ってはるんやな」

「ちょっと申し訳ないですけど、就活の息抜きにはなるかと」

「ええタイトルつけて、毎年エエ思いしてるっちゅうわけやな」

「それにですね、ジュンク堂がポンタカードの併用をはじめまして、八月からかな? 会計の時に出してみたんですわ」

「ほうほう」

「そしたらポイント800円もありまして、この写真集、二千円以下で買えたんですよ」

でかした!

「会社帰りのツタヤで買ってたら定価で買うところでした」

「なかなかやるやん! 賢い買い物できたな」

「機嫌直して頂けましたか?」

「安く買えたな。気分ええわ。なぁ、自分、これからその写真集、よかったら一緒に見ぃひん?」

「いいですとも」

「おおーっ、この娘、胸もすごいけど」

「ウエストとお尻がすごいことになってますでしょ?」

「次のページ、めくっていい?」

 夏の夜は過ぎていく……。

 さて、今回は「深夜の電話」を読み終えた。

 今回は趣向を変えて、小酒井先生、塚原俊夫くんに悪漢から「挑戦の電話」がかかって来る、というお話。

 内容に踏み込んでいるので未読の方はご注意を。

 海外の悪党団が日本に来て、映画女優を誘拐し、そのフィルムを本国で高く売りつけよう、というのが根底にある。

 そこに塚原俊夫くんを絡めようと、それも「君に犯人が分かるかね?」みたいに挑発してくるものだから、なかなか風呂敷を広げすぎの感がある。

 結果、体裁はグダグダ。どうしたの小酒井先生、となる。

 出来は「凡作」という感じだ。

 まず、相手の電話を交換手に確認すると、近藤美容室に繋がり、そこへ電話をかけ続けると、睡眠薬を盗賊に嗅がされ、昏睡していた店主が電話口に出る。

 犯人は「有名人を殺した」という電話をかけてきている。

 間も無く女優「川上糸子」が殺されている。という報がPの叔父さん経由で入ってくる。

 現場へ急行すると、川上糸子の死体を監視していた警官が猿ぐつわ。死体は消えていた。

 ここまでは結構盛り上がる。サービス精神旺盛だ。

 近藤美容室の店主は川上糸子を担当しており、絵葉書が来たから今は「温泉地にいる」という。

 なら死体は偽物か? 温泉地にいるのは誰か?

 塚原俊夫くんは温泉地に急行する。案の定、旅館から川上糸子は消えていた。

 部屋には「暗号のメモ」が。これも強引。

 俊夫くんは温泉に打たれ、暗号を解読する。そこには敵のアジトの住所が。

 これを残す意味があまり感じられない。そこで悪党どもが落ち合うのなら口頭で済ませば良いし、暗号にしてそこに忘れていくリアリティも薄い。

 その暗号を元に、警察が踏み込み一網打尽。仮死状態だった川上糸子を一旦空き家で警官に見せたのは、犯罪が完遂する「迷信」のため、という甲賀三郎ばりの無茶動機。

 真面目に犯行の経緯を説明されながら「若い頃はここで怒っていたが、今はニヤニヤして読めるなぁ」となっている自分に気付くのであった。

 

 1928年(昭和3年)1月「子供の科学

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)