呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

久山秀子「チンピラ探偵」を読む

 この前の休み、ジムが休館日の時にも家でトレーニングが出来ないか、と思い、リサイクルショップへダンベルを探しに行った(新品を買えよ!)。

 3キロくらいのやつが欲しくて、見れば丁度棚にあった。

 だが一個!

 値段は五百円でリーズナブルであったのだが、なぜ一個か。売った奴は二個買わなかったのか? だいたいダンベルのトレーニングは、二個を両手に持ち、フンッと。フンッ、という感じで腕を曲げて持ち上げるのが基本なのではなかろうか。

 何故、一個なのか。

「とても愛着があるから売りたくない、しかし金が急に必要になった。涙を飲んで一個だけ売ろう」

 他のものを売れよ、と。右手だけ持ってトレーニングしたら、身体が傾いて気持ち悪いではないか。

 いや、売った奴はマトモだった場合どうする? ちゃんと二個売って帰ったのだ。買った奴が一個だけ買って帰ったのだとしたら。

「しまった、財布に五百円しかない! 仕方ない、一個だけ買って帰ろう」

 二つ買えるようになるまで買うなよ、と。

 いや、店も手落ちがあるだろう。こんな中途半端な形で売るなよ、と。買い取った時に、紐でくくって「二個で千円」として売るべきではないのか?

 なんでこんなフリーダムで気持ち悪い売り方をするのか。バラでオッケーにしたら、本当にバラで買って帰るフリーダムな奴が出てきてしまったではないか。

「そんなこと言ってもお客さん、こちとら商売なんです。こんな不景気な世の中で、一個だけでも売れてくれれば、こちとら万々歳なんですよ。それにウチの経営方針にケチつけないでくれますかね」

 と、店長も喧嘩腰で言い返してきたらちょっと怖いではないか。

 仕方がないから、その横の一個一キロの二個でワンセット、二百円を手に取ってみた。

 合計2キロかぁ。ちょっと物足りない。だがこちらは二個一組だ。気持ちがいい。

 私は両手に持って構えてみた。

 その時、私のサイコメトラー能力が発動した。

 前の持ち主の幻影が目の前に浮かんだのだ。オレンジのシャツを着た超肥満のデブオタである。

 毎日、これで鍛えていたようだ。しかしたった2キロ。身体は全然変わらない。デブオタは僅か半月で、これをここへ売り払ったようだ。

 気持ちの悪い汗がダンベルにべっとりと付いている。可愛い女の子なら迷いなく買ったことだろう。

 どういう理由づけがしたいのか? 一度手にとって買わない理由づけで、ここまで妄想しなければならないのか?

 私はデブオタのダンベルを、買わずにソッと元の棚へ戻した。

 さて、今回は「チンピラ探偵」を読み終えた。

 印象だけで見くびっていた。久山秀子、 なかなかの手練れである。グイグイ読ませる。本格・変格というムーブメントとは関係なく「地下鉄サム」を輸入し、女スリを主人公に「いい話」を作ろう。という気概と姿勢が見える。

 厳密な本格、というよりは女スリが向き合う犯罪譚、といった趣だ。

 今回は冒頭で色魔の男爵が帰宅途中の自動車の中で射殺される。窓ガラスは割れている。運転手は「ガラス窓の割れる音がして、怖くなり慌てて家までお送りした」と供述。

 男爵は別の筋から脅迫も受けていた。さて、犯人は、殺害方法は。

 これを主人公である女スリ、隼お秀が探偵になって解決する、という堅苦しいものではなく、関わった成り行き上、特技である「スリ」の技術で、関係者の懐から色々と抜き去り、その中には「メモ帳」もあるわけで、そこから知り得る情報からストーリーを牽引していく。

 現代ならば、ハッカーが携帯から個人の動向を知り、先手を打つ、みたいな感じになるだろう。

 このスリ技術で相手の心の内もスル。というのが大きな特色で、まだ二話目だが「金が大好きでスル」みたいには映らない。自慢の指を風呂でも自分で見惚れて、関わったからには仕方がない、正義の落とし前をつけましょう。という具合だ。

 本作は映画になったそうだ。モノクロ無声映画で、短い作品だが、展開がスピーディーだったのでナルホド映画向きだろう。

 主人公の隼お秀を、女優の栗島すみ子が演じた、とある。グーグル先生に聞いてみたら画像がヒットした。

 おぉ、イメージに近い女優さんではないか。

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1926年3月「新青年」