呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

久山秀子「娘を守る八人の婿」を読む

 今日はこの遅読な私が、一日で読み終えてしまった作品、私の読書スピードは面白さに比例するのですが、早坂吝先生の「◯◯◯◯◯◯◯◯殺人事件」をご紹介しましょう。

 

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

 

 タイトルで分かるとおりミステリ作品ですが、とんでもない大技が仕込まれております。

 私の心の琴線にビンビンくる仕掛けで、解説にもある通り「世の中を舐めきった作品」という形容がピッタリだと思います。

 本格か? 変格か? いや新変格だろう、いや手法は本格だ。などといろいろ考えながらの再読です。

 ノベルス版で読んで、加筆訂正されている、というので細部を観察しながら読み進めました。

 絶海の孤島での殺人事件です。探偵が終盤、一同に集め謎解きもします。古き良きスタイル。

 それでもこの作品の「大技」は、大多数の人は見抜けないでしょう。

 ネット上でネタバレを喰らう前に、どうかこの稚気に溢れた問題作を読んでいただきたいものです。

 さて、今回は「娘を守る八人の婿」を読み終えた。

 この作品は子分を三十六人も抱える隼お秀が、まだ駆け出しのスリだった頃の話。

 私自身、久山秀子が「男性作家である」ということを既に知っているからかもしれないが、やはり男性が想像する女流作家の書き方をしているな、と感じる。

 この作品は隼お秀が劇団に所属し、美人なので劇団員の男性からヒロインに抜擢される。というお話。

 ここでお秀が八人の男性に対し、劇中頬を寄せたり、首筋に唇を這わせたりして、男性連中がメロメロになるのだが、こういう書き方が「男性脳」だな、と。

 それらを小馬鹿にして、隙をついて身につけている本物の小道具、高価な指輪や時計をお秀がスル、という痛快作なのだが、この作でお秀が「秀でた美貌の持ち主」という設定も与えられる。

 本当の女性作家というものは、個人的な意見だが、脳の構造が全然違うんだろうな、という怖さがあって、とても思いつかないことや視点を見せられると、お手上げな感じになる。

 松本恵子の諸作を読んだ時にも感じた「畏怖」だ。夏樹静子を読んだ時にも感じる感覚かな。

 そしてこの作品、座談会で探偵作家が合評しているのだが、そちらの様子が本編の何倍も面白い。

 甲賀三郎が批判的だったり(やっぱりな)江戸川乱歩が驚くべきバランス感覚で公平な意見を述べていたり、延原謙が支持していたり(やっぱりな)。

 本作は「何でもスル無敵のお秀」では軽いので、最後に死別を絡ませました、みたいな構成になっているのが惜しい。紙面の都合だろう、取ってつけた感が否めない。

 

1926年5月「新青年」