今日も新刊を買ってしまった。文庫である。あの「メフィスト賞」受賞作だ。
名倉編先生の「異セカイ系」である。
予備知識は全くない。が、メフィスト賞は毎回変わったものが読める。直球ではなく変化球でくる。
その一般受けはしない、がコアなネタ、が楽しみなのだ。
小説、特にミステリという土壌で行われる文学実験、みたいな雰囲気もこの賞は持っている。
個人的な趣味嗜好だが「犯人は誰だ、トリックは? アリバイは?」というのも楽しいが「そういうのもやりつつ、裏がこんなことになってんの?」みたいな構造を楽しむ作品が好きだ。
一発ネタ、大技、という呼称の作品。そういうものに出会える賞なのだ。偉大なるB級作品、みたいな。
部屋に積ん読本は山積みになっているが、早い順番に回したい一冊。
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さて、今回は「隼お手伝ひ」を読み終えた。
短いもの。内容に踏み込んでいるので、未読の方はご注意を。
楽屋での毒殺事件。私立探偵の富田は被害者の父親から依頼を受け捜査を開始。楽屋に入るツテ目当てで隼お秀に声をかける。という導入。
座談会での批判が作者、久山秀子の念頭にあったかどうかはわからないが、探偵趣味に関しては、これまでの作よりも盛り込まれているように感じる。
被害者が毒殺されているところから、楽屋内での「湯呑みで茶を飲んでいた」という証言が強調され、ミスリードを誘う。
久山秀子が自分なりにどう「探偵小説」を構築したかったのか、その手法が垣間見える本編。
無味乾燥な殺伐とした楽屋での毒殺事件、そこへ作者は「三味線」という味付けを加える。
毒殺した相手を間違えた犯人は被害者がその日、三味線を弾くとは思っておらず「ターゲットを間違えた」格好になった。
この作品世界では正義の名の下に犯人を徹底的に糾弾する、というスタンスではなく「なんなら黙っておきましょう」という感じである。
殺害のトリックとなった三味線を私立探偵富田が借り受け、バチを持って実際に鳴らし始める。指を舐め三味線を握る、そしてまた指を舐める。
その三味線の胴体に小さな穴が。そこへ毒を仕込んだのだ。
「推理」という説明に終始するシーンを、パズルの答え合せだけに終わらせず、富田が通人として華麗に三味線を弾き鳴らして、なぜ、どうして被害者が毒を口にしたのか、を演出する。
本格探偵小説に対する自分なりの独自色、久山秀子の回答とも言えるだろう。
1926年7月「探偵趣味」