呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

『まゆゆ似』の彼女との一部始終。

 津山旅行記もぶった切っての緊急掲載である。

 こんなことなら、このブログのタイトルにもある通り、大好きな探偵小説を読んでストイックに感想を書く。そんな毎日を過ごせばよかったのだ。

 男子更衣室、女子更衣室から同時に出て廊下で鉢合わせしてしまったのだ。

 通路で並んで立ち尽くす格好になった。目が合ってしまったので、私は五十にもなるというのに、勇気を振り絞った。

「こんばんは」

 向こうは硬直している。アンケートも取ったので、ここで続かねばならない。

「いつもダンス上手ですね」

 

f:id:Kureage:20190303214405p:plain

 

 これはアンケート結果を無視したチキン野郎行為だったのだが、よく震えずにスッと言えたな、と思う。

 すると彼女は下を向いて小声で

「いいえ」

 と宙を彷徨う視線で返答した。

 私は「こりゃ脈ないな」と瞬時に判断した。張り裂けそうな胸の内を悟られぬよう、早足で先にジムに入った。

 私は何故か泣きそうになって、あぁ、こんな気持ち、高校三年のフラれた時を思い出すなぁ。

 と、列に並び涙を堪え周りに悟られない様に佇んでいた。

 足は震え、手も震えていた。

 色々あったのは、全部男の都合のいい妄想だったのか。今、彼女は「気持ちの悪い思いをした」と身震いしているのだろうか。

 スタジオでエアロビの列を待つ。彼女が毎回入るプログラムだ。

 私は怖くて後ろを振り返る事が出来なかった。

 辛すぎてこのまま帰っても良かったくらいだ。

 私はただ、気軽に挨拶できるジム友になりたかっただけだ。それが女性には視線が宙を彷徨うほど怖い事なのかもしれない、その温度差。

 きっと「気色悪っ」と吐き気を我慢して、そのままUターンして帰った事だろう。

 私の淡い想いは終わった。

 スタジオに入り、最後尾に並ぶ。

 すると、帰ったと思っていた彼女がスタジオに入ってきた。正面のミラーに反射して、後ろから歩いてくる姿を盗み見たのだ。

 これ以上恥の上塗りは勘弁してくれ。

 恥にまみれ、プライドを引き裂かれ、私は穴があったら入りたかった。

 今、貴方は文学の誕生を目の当たりにしている。

 すると、どうだ、先ほど小声で迷惑そうに返事をしたクセに、私の真ん前にチョコンと座ったではないか。

 今更どうしろというのだ。もう私に次の会話の手持ちは無い。

 何故前に座る。

「逆恨みされたら怖いから普段と一緒にしておこう」

 という判断なのか。

 私は辛すぎて女心がわけわからなすぎて、何故平然と私の前に座る事が出来るのか、理解が全く出来なかった。

 怖いのなら距離を取れば良いではないか。

 体操座りで前後に並ぶ。開始まで二分、私は何も喋る事が出来ない。向こうはストレッチをしている。

 途中の給水タイムでも、私の水筒の横に彼女も水筒を置いている。

 何故、そんなことをするのだ。

 刺されたりしたら怖いから、きっと先ほどの挨拶を無かったことのようにしているに違いない。

 何度も給水で並んで歩くのだが、会話など出来る精神状態ではなかった。

 情けをかけるのはやめてくれ。結局プログラム中、前後にその距離1メートル以内に並んでいたのに、私の傷付いた心はそれ以上傷を広げることなど出来なかった。

 妄想とは怖い。気軽に挨拶を返してくれる、と半分以上思っていたのに。

 ジムを辞めようか、と思っている。

 

〜完〜