今日はノルマを口にする上司もいなければ、即ギレスイッチの異名を持つ嫁さんもいない。
天気は微妙な曇り空だが、なんとか雨にはならずに済んだ。
我々は日々の苦労を互いに労い、謂わば『ネギラー』と化し、生活のストレスを解消すべく、姫路から一路滋賀県を目指していた。
一発では行けない。我々は五十歳なので、喜び先走って一気に飛ばそうものなら『頻尿地獄』が待ち構えているのは明白である。
ちゃーんと途中でおしっこを済ませてから目的地へ向かうのだ。
というわけで明石インターでトイレ休憩。
新年の挨拶を済ませ、久しぶりの再会に握手を交わす。
「お互い新刊を出せて良かったな」
「我が妻、好調やないか」
「おまえこそ。連載島、めっちゃレビュー付いてるやん」
二人でそれぞれの創作に対し、簡単な意見交換。2020年、幸先の良いスタートである。
「今日は予定お任せしてるけど、どういうペースで行くんや?」
「まず琵琶湖の左下から攻める。で、反時計回りでグルーッと彦根を経由して長浜まで、二泊三日で城二つ攻めたいな」
「おいおいおい、オマエ最初一泊って言うてたやないか」
「気付いたか」
「気付いたわ!」
「いやぁ、誤魔化し通せると思ったんやけどなぁ(笑)」
だまし討ちでどさくさに紛れて彦根城、長浜城をじっくり見学するプランを立てたのだが、人気作家の金平先生は連載が増えて、スケジュールが引っ張り上げて食い込ませたパンストの如く、ビチビチなのであった。
「定休日とか大丈夫やろうなぁ。松江、米子ではボロボロやったもんな、オマエのプラン」
「今回は大丈夫やろう。日頃の行いがワシらはエエんや。神様はご褒美をくださるはずや」
「またノーチェックかい! めっちゃアバウトなどんぶり勘定ぶりやのぅ」
渋滞にもひっかからず車は大阪を通過し順調に滋賀県へ。
「よっしゃ一軒目や! 張り切って行こう」
時間は11時22分。まずはハードオフからである。血湧き肉躍る。『誰がぜい肉も踊ってますね』じゃゴラァ!
瞳孔が開ききった状態で店内を物色。ここはレトロゲーが凄かった。メガドラマウスの箱付きとかあった。あとセガマスターシステムのソフトとかPCエンジンデュオの本体まで置いてあった。
「ほ、欲しい。が、高くて手がでん……」
金平はコンデジを物色。
「ん? オマエどないしたん? 結構エエやつのサイバーショット持ってたやん。壊れたんか?」
「それがな、出版社のパーティー行ってな、有名作家さんと飲めて舞い上がってな。嬉しいのと悪酔いしたのとで、家に帰って気付いたらデジカメないねん(号泣)」
「会場でか? 駅とかでか?」
「分からへんねん」
友はメソメソしていた。
「このあたり、どう思う?」
「1620万画素やん。充分やで」
格安だったので箱も無く、本体をビニールで巻いただけでピアノ線で吊られていた。周辺機器も全く無い状態である。
「あのぅ、これ、充電方法とかは?」
「ええと、それはもうそのビニール袋の中身だけの販売になるんですよ」
本体からバッテリーを抜いて、そのバッテリーをコンセントに刺し充電することはできないようだ。そこで私が本体の側面を見て気付く。
「あっ、店員さん、これバッテリー内蔵させたままで、横からUSB-A刺せば、本体で充電とか出来るタイプですか?」
「穴はありますね。試してみましょう」
店員さんは奥のジャンクコーナーに行く。そうして大量の様々な規格のケーブルから見つけ出しレジに戻ってくる。
「USBをコンセントに刺す器具はお持ちですか?」
「持ってないんですよ」
再び店員さんは別のジャンクコーナーに行って、iPhoneでもお馴染みの、白い四角いUSB穴の空いたコンセントを持ってきた。そして全て連結。コンセントに刺してみた。デジカメの充電ランプが点灯する。
「やったぁー!」
三人で声を上げる。妙な連帯感が生まれた瞬間であった。
「じゃあこれ、全部買います」
友はホクホク顔であった。
「やっぱ一眼も持ってるけど、コンデジが楽でええわ」
中古のSDカードも購入して店を後にする。その近所にブックオフもあるので移動。
12時、近くのブックオフに移動。本、DVD、写真集を物色し、購入リストに沿ってロボットのように無駄なく確認していく。
ダラダラと見るのではなく、要領よく店をはしごしていかなければ、すぐ夕方になってしまうことを、我々はこれまでの経験で知っていた。
さぁ、お宝に巡り会えるのか。
〜つづきます〜