呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

彦根旅行6

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 金平が自然に目覚めたことを確認し(笑)荷物を纏める。少し早いが、チェックアウトを済まし、ここを起点にして再び中古ショップ巡りを再開させるのだ。

 平日の朝なので観光客は全然いない。城内駐車場には我々だけである。気温も低く、少し肌寒い。

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 9時24分彦根城着。

 相棒の金平は、これまでに何度も城へ引き連れて行っているのに、一向に城好きになる気配がない。私のテンションの高さと、かなりの温度差がある。

 ここは日本に残る、たった12個のうちの一つ、木造現存天守が残る彦根城だ。天守といえば前に行った備中松山城の木造現存天守の感想を聞いた時でも、あいつの言い草はどうだ。

『階段が急で怖い』

『物置みたい』

 などと、まるで小学生の作文のような頭の悪い感想しか出てこなかった。

呉「おおっ、見ろ金平。当時の建物で厩(うまや)が残っているぞ! 全国でも珍しい遺構だ」

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 私はうひゃうひゃ言いながら一眼レフのシャッターを切る。馬の置物に感動する。江戸時代に想いを馳せるロマン。ここから駆けだしていったのだ。

 私は城の『建造物』が好きで、歴史にはほとんど興味が無い。城主は誰だったとか、そういう情報は詳しくはない。城の美しい造形美に惚れ込んでいるのだ。

呉「おおっ! 復元された御殿が見えるぞ! 半分木造で半分鉄筋再現らしいわ」

 金平は聞いているのかいないのか、手に息を吐きハエのようにこすり合わせながらついてくる。

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 ちょっと様子がおかしい。いくらなんでも閑散としすぎであろう。気配が全く感じられない。

呉「な、なにぃっ?!(ガッデム)

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 この日は28日である。よくもまぁこんなスポットで休館してくれたものだ。定休日は確認していったのだが、メンテナンス工事の告知まではホームページを確認しには行ってなかった。

金平「うわぁ、ホンマ残念やなぁ。見たかったなぁ。帰ろか」

 隣で金平が台本を読む棒読みの三流俳優のような口調で慰めてきた。感情は全く入っていない。

呉「アホ言うな。御殿は休館やけど、天守はやってるぞ!」

 私は相棒の後ろに回り背中を押した。本丸までは緩やかな坂になっており、石段が続いている。

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 天守はお楽しみににとっておいて、私は天守の奥にある、これも現存数では数少ない、三重隅櫓の方へと足を向けた。

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 見よ。このCGのような均整の取れた美しさ。私は歴史的背景の書かれた案内板は飛ばし、ひたすら建造物に向かってシャッターを切る。

 そこで城巡りの時は、相棒を退屈させない為に、歩きながら創作談義をするのが常であった。

金平「最近、何か読んだ?」

呉「一番最近読み終えたのは、波野發作さんの『縄文スタイル』だな」

 

縄文スタイル (破滅派)

縄文スタイル (破滅派)

  • 作者:波野發作
  • 出版社/メーカー: 株式会社破滅派
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: Kindle
 

 金平「どんな話?」

 私は手短に概略を説明する。再会すると、会えなかった間で互いに吸収したものの意見交換をするのだ。それが互いに刺激となり、自分の創作に活かせることが何度もあった。

呉「デザイン事務所の先輩と後輩の視点で進んでいってな、その二人が手がけた『縄文スタイル』という生き方の提案が、二人の手を離れて段々一人歩きしだしてな」

金平「ほうほう」

呉「で、おそらく『江戸しぐさ』への警鐘パロディを狙ってはると思うんやけど、縄文が社会ブームになってな、金になるからいろんなところが乗っかってくんねん」

金平「エスカレートギャグやな」

呉「そうそう、なんでも縄文にこじつけてな、書籍で『縄文スローセックスライフ』とか。縄文は夜が長いからな(笑)あと縄文老人ホームで悠久の時を、みたいな」

金平「そこは悪のりして目一杯書きたいところやな(笑)」

呉「そうそう。で、楽しんで読んだんやけど、作者さん、こんだけ手堅くそつなく纏めてはるのに、ツイッターで創作悩んでます、言うてはって、分からんもんやなぁ、と」

金平「なんでやろな。ワシが思ったのは、これ根拠の無い勘やで。その方短編が主体で得意なんちゃう? 長編の形を模索してはるように感じたわ」

(※波野發作さん好き勝手言ってすいません。二人は縄文スタイルをプッシュしております)

金平「オマエ、今までのツイッターから探偵小説ばっかり読んでると思ってたけど、最近は違うんやな」

呉「ちょっと普通文学にも目覚めてな。殺人のない物語も面白くて。キンドルのアンリミ入ってるから、手当たり次第に乱読しとるんよ」

金平「どうや、活かせそうか?」

呉「アップデートは常にしていかなあかんと思ってる。ネタ、発想力は気にせんでええねん。乗り物や。言葉を運ぶ乗り物。つまり文体やな。ここは新しい風を常に入れておきたいし、動向は気になるな」

 琵琶湖を見ながら城内を歩く。やはり創作の話を相棒としている時が一番楽しい。

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 会社で交わされる株や経済の話、儲け話、プロ野球高校野球、スポーツ全般の話、ノルマの話、上司の悪口、別の支店の不倫の噂(これだけは好き)(笑)

 そのような話ばかりで、実生活では創作の話などできる相手がいない。相棒の金平は私の身の周りでは得がたい希有な存在なのである。

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 そうして本丸に戻り、これも木造で現存している天秤櫓まで来た。これは珍しい橋で、時代劇のロケにもよく使われる場所である。この橋の下は空堀になっており、歩いて移動できるのだ。

 坂を上り、待望の三重天守とご対面。

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呉「う、美しい」

 私は小型のビデオカメラも回す。それをクリップで肩に引っ掛けて、歩きながら城内の様子を撮影する。ブルーレイに落として、旅の記録は毎回金平と共有するのだ。

 天守を堪能し、出口へ向かうと売店が目に入った。

呉「ああっ、あああっ!

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 私が集めている『城メダル』の販売機を見つけ、狂喜乱舞する。私はベロを出し、ハァハァ言いながら前のめりで購入する。そうして打刻マシンにセットした。

『かねぽんと』

 私は毎回こう打刻する。

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 我々は今年五十だ。あと元気に動き回れるのは、あと十年くらいかな。相棒とこの先、どれだけ日本の名所を巡ることができるだろう。

 そんなことを考えながら売店の外へ目をやる。得がたい相棒はニコチンが切れたのか、喫煙スペースで美味そうに煙草を吸っていた。

 

〜つづきます〜