月の小遣いから嫁さんは容赦なく千円引いていく。それはクレジットカードでAmazonのアンリミの請求があるからだ。実際は千円未満だから年間数百円の損をしている。それを言えばきっと
『またアンタはケツの穴の小さいこと言うて』
と、現代の放送コードでは色々と問題のある発言をすることは容易に想像できた。
なので黙っておくことにした。
そのモヤモヤした気持ちをこうやってブログにぶつけることにする。ブログタイトルは探偵小説だが、右に表示されるカテゴリ欄にKindleの項目も作ってある。
基本は探偵小説好きだが(それも物故作家ばかり)、五十になって視野も広がった。年間数百円の損を、同時代で創作する人との出会いに繋げようではないか。こういう動きで、また残りの人生、楽しくなるかも知れない。
今回読んだ本は山田佳江さんの本。もう一つのブログ『だめなやつら』で書いた『#精神のなんとか』の主催者さんだ。イベントの告知ツイートを見てハッシュタグ付きツイートをしたら、私の作品も掲載してもらえた。利害関係は全く無い。この記事は純粋な読書レポートである。
今回読んだ『感情買取ドットコム』ほとんど一気読みだった。これは重要で、私は乱読するが集中力が続かない。典型的なB型人間である。
面白くないと途中でも平気で投げ出してしまう。
本作は文章もそうだが、読み手を引きつける、興味を持続させる技が巧みで、色々と女流作家の方程式を考えさせられる、よい読書経験となった。
まずタイトルにある感情買取、この設定が面白い。SFほどハードなものではなく、スマホのアプリで人間の感情を売り買いできるのだ。インカメラの眼球スキャンによって。
これがメルカリ的で実にありそうなものとして描かれる。科学的には無理もあろうが、全然そんなことを感じさせない。
主人公の中年男性は今でも愛してる妻と別居五年目を迎えている。愛が強すぎて、上手くいかない感じの夫婦生活であったのだ。
その別居する妻は不定期に男を部屋に呼び出す。ワインを一緒に飲む口実をつけて。そうしてセックスもする。読んでいて『なら復縁したらいいじゃん!』と思うのだが、様々な要因が重なって元の鞘には収まらない。
この辺りの『焦らし』が実にイイ。
中年男性に恋する部署の後輩女性は、明るく気持ちを伝えてくる。感情買取のアプリを教えてきたのも彼女だ。
未練を買い取らせれば、自分に振り向いてくれるのではないか? そういう打算も働いている。
生殺しの男は(そりゃそうだろう)妻への未練の気持ちをアプリで査定してみる。すると、桁違いの買い取り価格二百万円の表示が出てきた。
男は『この苦しい気持ちが消えれば、新しい恋、新しい一歩が踏み出せるのではないか』と思うようになる。
そうして一大決心をして気持ちを売り払ってしまう。嘘のように心の中の霧が晴れる。会う度にドキドキしていたのに、玄関先で見る妻は普通に年齢を重ねた中年女性であった。
気持ちも晴れて男は離婚の手続きもスムースに行えるまでになっていた。
そこで目にした感情のオークション。三百万円まで高騰している。妻の感情が売りに出されていたのだ。
妻は何を思っていたのか。俺は愛されていたのか。様々な想いが高まって……。
というお話。よいお話は粗筋を書くだけでも引き込まれる。
今回読みながら思ったのは、男である自分が同じ素材を扱うのなら、感情買取は、その設定でもっと笑かしにかかるだろうな、と。終始物語はリアルな男女の感情で進行していく。そこに女流作家の凄みを感じる。
あと、セックスしてるのに、食事もするのに、定期的に会うのに、復縁しない。という話の流れに『女性のセックス』を感じた。なかなか到達させない。男ならすぐ射精したがる所を、こんなにネタてんこ盛りなのに、ゆっくりと筆を進める。ちょっと下品な形容だが、ここはいただきポイントである。
物語に成長と希望が見えるのも良い。高いリーダビリティ、オススメの一本である。