呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

泡坂妻夫『斜光』を読む

 

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斜光―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

斜光―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

  • 作者:泡坂 妻夫
  • 発売日: 2001/06/01
  • メディア: 文庫
 

 

斜光 (角川文庫)

斜光 (角川文庫)

 

 

 今、このブログを、この前買い替えたM1Mac miniで書いておるのですがね、起動から何から爆速なんですよ。体感的にはiPadの起動に負けず劣らず、くらいです。

 これは優秀なマシンですね。歴史に残る一台になるでしょう。

 さて、本日は読み終えたのは少し前なんですけどね、泡坂妻夫の『斜光』について感想を書き残しておこうかな、と。

 厳格なミステリ読者さんからすれば、ミステリとエロの融合は眉を顰める事案かもしれませんね。本作はストリップ小屋から物語が始まるのですから。

 それも踊り子は、かつての妻。何も言わず蒸発したままの妻ですよ。

 これだけでも魅力的な出だし、掴みだと思いましたね。

 読み捨ての大衆雑誌に、大したことのないトリックと煽情的なエロ描写で読者の興味を引っ張る。そんな低俗な作品とは本作、天地の開きがあります。

 私はこのように上品なエロとミステリの融合ならば賛成ですね。

 まず妻が最初は禁欲的で、結婚し新婚旅行で初夜を迎え、そこで初めて女の喜びを知る、この辺の貞節な昭和の奥さん像が、たまらなく味わい深いんですわ。

  その『性』に関しても、妻には物語を貫く大きな謎と悲哀があるんですけどね。

 そうして現れる若い男の影。嫉妬心や、何故? という気持ちに共感しながら物語は進みます。

 その若い男には妻がいて、主人公は煮え切らない感情に流されながら、妻の本心を知るために夫婦交換を一緒に泊まった温泉宿で交わすんですよね。

 ここも『やりすぎじゃない?』と読みながら思ったものでしたが、読み終えてみると、いろんな出来事が裏に潜む背景に照らし合わせてみると、最後には感じ方が全く違ってくるんですよね。

 憎たらしく描かれる、父の恥を隠蔽しようとする政治家。この辺の描写も上手い。『明るみに出て破滅すりゃいいのに』と自然に思ってしまうのは作者の手腕。

 そして何よりも痺れるのが、刑事が地方劇団公演のパンフレットを読みながら『あること』に気付き、埋まらなかった証言の齟齬の原因に到達する場面。

 刑事が震撼しながら頭の中でゆっくりと組み立てられる仮説に、読みながら『おいおいおいおい、ほんまやがな』とサブイボ出まくりで読み進めました。

 解決編はこうでなくてはならない。

 全体像としては『ゲスい』背景もあるので、その辺で嫌悪感を示す人もいるかもしれませんが、荒唐無稽なことではないですからね。世の中普通にあることでしょう。

 論理やトリックもいいですが、私は女の謎、こういうのもミステリとしていいな、と思うんですよね。人の心を探っていくのも、ミステリ的じゃないですか。

 ミステリと文学の融合、乱歩の一人の芭蕉の問題を考えるとき、この作品もそれに準ずる作品なのではないか、と感じましたね。突破口はこの辺にありそうだと思っています。