大陸書館さんから甲賀三郎の短編集が刊行された。復刻ではなく新規に編まれた短編集である。検索すると長隆舎書店「劉夫人の腕環」(1942)という単行本がヒットする。収録作品は違うようだ。当然持ってはいない(欲しいが)(笑)。
九本も収録されている。ありがたい。探偵小説好きなら、絶対にマストの一冊であろう。
大体、甲賀三郎の復刻など、二十年くらい前に大手出版社が3〜5巻本の選集を出していなければならないくらいの重要な作家だ。
江戸川乱歩と共に、この甲賀三郎と大下宇陀児が切り開いた、日本の探偵小説の歴史を振り返るとき、乱歩、横溝が何度も蘇るのに対して、あまりにも不遇すぎる。
面白くないから? 作品が古びてしまっているから? 採算が取れないから? 甲賀三郎の復刻事業は、日本ミステリ界の良心であろう。
私は待った。昭和、平成を飛び越え、とうとう令和まで来てしまった。どこの出版社もガン無視である。誰も手をつけない。傑作選すら出る気配もない。大下もそうだ。
多少風俗的に古びてしまっているかもしれないが、甲賀三郎、大下宇陀児の、乱歩に比べ量産された作品群は、それでも作品毎に日本ミステリ黎明期のトライアンドエラーの軌跡がうかがえる貴重な足跡である(エラー判定を含め愛していきたい)。
通俗など低俗だ、本格こそ復刻する意義がある、と編集部でしかつめらしく議論されているのかもしれないが、元来、通俗イコール大衆受けを狙った作品、なのだ。成り立ちからして面白くないわけがないのだ。偉い人にはそれがわからんのです。
冒頭の『支那服の女』など、ストーリーの着地地点が早い段階で分かったとしても、饒舌なほどの当時の女性の社会進出描写、女給や踊り子などの風俗、女性の社会的地位が垣間見えて、とても興味深いテキストだ。
大陸書館さんには潤って欲しいなぁ。そうして甲賀三郎傑作選をシリーズ化して欲しいなぁ。
元気玉じゃないけれど、私は両手を天にかざし『みんな、オラに少しだけ小遣いを分けてくれ』と念を送りながら、このサイトに誘導し、一冊でも多く売れてくれることを願うのみである。
収録されている掲載誌を持っているので、私もテキスト入力の勉強をさせて頂きながら楽しもうと思っている。