探偵小説ではないのだが、変格探偵小説好きの嗅覚がムズムズと動き、ネットでポチってしまった同人誌である。結果は正解であった。
三島由紀夫に絶賛され、倉阪鬼一郎には『戦慄のカルト作家』と紹介され、平野謙には難色を示され(笑)、まぁこれは時代に埋もれて、長く入手困難な作品になるわな、と納得できる小説であった。
この『家畜小屋』という作品、芥川賞候補になり、受賞は逃している。しかしよくもまぁ候補まで行ったものだ。一言で形容するなら『相当ひどい小説』である。
今のコンプライアンスに照らし合わせれば、ちょっと題材だけでもヤバいのだが、豚の屠殺業が主人公のお話である。
そして年齢から腕が落ち、一発で豚を仕留められなくなった主人公が、若者にその座を奪われ、花形から豚の糞始末係に降格され、給料も減る。
ここまでの一連の舞台が、精密な描写で語られる。ネチョネチョのぐちょぐちょだ。足元の糞、血に染まる川、その川下に住む主人公、絶えず臭う血、隙間風吹きまくる自宅の薄いトタン壁。過酷な環境で働くプロレタリア文学、という側面で考えれば芥川賞の候補にまでいったのも頷けるが、なんせ夢も希望もない。
太った妻が給料も減り、絶えない夫婦喧嘩の果てから、夫から言われた一言に逆上し、そのまま飼育している豚小屋に住み始め、言葉を発さず(発狂した?)ワラの上で糞をして、餌皿に顔を突っ込んで四つん這いで食事をするまでになってしまった、というのが話の核である。
主人公は飼育していた豚と、かつて妻だった豚もどきの飼育に追われる。
そして訪ねてきた同僚に家畜部屋を見られ『雌豚を譲ってくれねぇか、言い値を出そう』と持ちかけられる。
散々悩んで血に染まる川を横に、川上の職場に歩いていく主人公は、妻を売るのか、どうするのか、そんな幻想譚である。
いやぁ、参ったね。なかなかこんな小説はないね。全部で四作収録。残りもこんな調子なのだろうか。この復刊事業の先に、再びスポットが当たるとは思えない。ヘンテコ小説が好きな方は、あるうちに押さえておいた方が良いだろう。