作者の小野塚力さんから、評論集 『第三の磁場』〜辻野久憲試論〜を御恵投いただき、早速読ませて頂いた。
二十八年という短い生涯の中で、早くに、梶井基次郎、堀辰雄、宇野浩二らと交わり、萩原朔太郎に師事した、今では忘れ去られた作家、辻野久憲について書かれている。
作者の小野塚力さんは、私を私小説の沼に引き摺り込んだ師匠で、まぁ、いつも面白い作品を紹介して、読ませたくなるように仕向けるそそのかせ、が本当に上手い。
本書もその得意技が至る所で炸裂している。
宇野浩二あたりならば、江戸川乱歩、横溝正史好きなら、エッセイから手繰り寄せて、ギリギリ現代でも読まれる作家ではあるだろうけど、その周辺であった辻野久憲ともなると、私程度の純文学愛好家なら初耳の作家であり、試しに何か読んでみようか、とアマゾンで検索をかけるも、単著で目立ったものはヒットしなかった。
本書を読むと、私小説に接近した愛人との交換日記、これが博物館の所蔵で、未だ刊行の目処が立っていない日記なのだが、その一級資料を実際に現地へ赴き、目にした感想と、そこから広がる【私小説論】近松秋江や田山花袋、果ては西村賢太にまで連なる流れの解説が抜群に面白い。
きっと更なる私小説ファンを開拓してくれる一冊となるに違いない。
そして今回も小野塚力さんの、忘れ去られていく作家に対しての郷愁の想いが胸を打つ。名調子で、この技こそが原動力であり、書き手、小野塚さんの真骨頂だろう。
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