呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

橘外男『燃える地平線』を読む

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 幻戯書房さんから出た銀河叢書の橘外男三連続リリースの第一弾『創作実話』篇と銘打たれた本書『燃える地平線』を読み始めた。

 

 四本入りの短編集。まず冒頭の『地獄への同伴者』を読み終えた。美しい妻との新婚生活、肺病に冒され、禁欲生活を強いられる夫。そこへかつて下宿していた出戻りの女将から『話しておきたいことがあるから来てくれないか』という手紙が届き……。

 

 橘外男は探偵小説作家というカテゴリーからはちょっと外れる作家で、物書きとしては直木賞作家というサラブレットである。怪奇ものや怪談もあるが、変格の枠からも外れ、奔放な物語世界を見せてくれる。

 

 まず引き込まれるのは饒舌体とも評される、高い熱量の文体が紡ぎ出す生き生きとした人間模様。

 

 途中までは純文学作品を思わせるような展開で、タイトル通りの物語に変容するのだろうか、と思いながら読み進めたが、終盤、突飛な着地をせず、共に肺病同士の女の情念を描きながら、あり得そうな生霊を描き、なんとも言えない読後の余韻を残す。とにかく読ませる。令和の今でも全然古びてはいない。

 

 橘外男は同じ内容のものを繰り返し書き続けていたこともあり、そういう経歴のため全集を編むにも色々と問題があったろうが、今回のこのシリーズによって、精選された作品が提供されることはとても喜ばしいことだ。