呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

ヒラヤマ探偵文庫JAPAN 湯浅篤志・編 三上於菟吉『美女舞踏』を読む

 

 三上於菟吉『美女舞踏』を読んだ。短編が二本収録されている。表題作と『獣魂』で、どちらも極く短いもので、すぐに読めるものだ。

 まず『美女舞踏』から。タイトルからして良い。美女に舞、探偵趣味濃厚なフレーズである。このような煽情的でいかがわしいワードで釣り込んでくれるのが嬉しい。

 蛇嫌いの男の話で、私はそこまでではないが、同僚で『蛇が通った跡を踏むのも嫌だ』という男が居た。蛇嫌いの人間は、そこまで徹底して嫌悪する人が多いように思う。

 前段のフリとして、その男の蛇嫌いのエピソードを描いておいて、後段、何故その男が癲狂院に行く羽目になったのか、という流れで物語は進む。

 そこでタイトルが絡んでくるのだが、蛇嫌いの男が舞踏ショーに誘われる。そのショーに蛇嫌いの男の妻によく似た外国人女性ダンサーが出るから、という理由で観劇するのだが、そこから何故精神病院にぶち込まれることになったのか、というのが謎。

 編者の湯浅さんはオチが物足りない、と書かれていたが、私は充分満足だった。懸命な探偵小説読みなら、この段階で、蛇のようにクネクネした舞踏を見せる外国人女性ダンサー、その後気絶する男、そこから様子がおかしい、似ているダンサーと男の妻、蛇。このキーワードで男が何故妻に襲いかかったか、察しはつくだろう。

 綺麗に部品が収まって、探偵趣味も濃厚。ハードルを低くして読んでいたので、この雰囲気の良さは予想外だった。

 次に『獣魂』これもワードセンスが探偵風味濃厚で良い。三上於菟吉はよく分かっている。これがセンスというものだろうか。松本泰あたりと並べても優っているように思える。

 作家の元に旧友が訪れる。父の様子が最近おかしく、夜中、四つん這いで歩いたり、高いところにぶら下がったりする奇行を見せ出したらしい。これがメインの謎。

 伏線としてこの老人が、若い妻を娶ろうとしている、というフリがちゃんと前段で書かれている。

 この奇行の謎を作家が解くのだが、これも無理がない。倉田啓明に通じる無茶な謎の力技解決系の話だが、納得できる解決である。

 探偵趣味の扱いも吸収も、やはり作家自体のセンスの為せる技か、十分に楽しめる内容であった。よくできた古い探偵小説を読んだ満足感を味わえた。