呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

久山秀子「隼のお正月」を読む。

 最近はビートルズの『ホワイトアルバム』50周年記念盤がヘビロテだ。

 

 

 ジョージマーティンの息子、ジャイルズのニューミキシング作品で、アルバムはガラリと生まれ変わった。

 ニューミックスって音が大きくなっただけでしょ? と思ったら大間違い。楽器の配置や埋もれていたつぶやき、演奏の消え入る先までしっかり聞き取れ、当時の少ないトラックに詰め込まれていた音の団子を、解きほぐして上手く交通整理した印象。

 ファンなら敬遠せず、迷わずCDを購入するのが吉。

 同じ音が鳴っているはずなのに、全然違うように聞こえる曲もある。

『ワイルド・ハニーパイ』など別物になっている。

 さて、以下数回通して聴いてみた簡単な寸評を書き記しておこう。

『バックインザUSSR』冒頭、一発目の印象は前回のサージェントのリミキシングが、結構大胆に音像を変えてきたので、今回も音をゴリゴリに際立たせてガンガン来るかと思いきや、なんかシンプル。塊になっていた楽器の音を分離して、どの音もクリアに響く。そういう方向なのね、うん。いいよ、好感が持てる。

 そして2曲目の『ディアプルーデンス』ここで既にピーク来た。イントロのギター、これがステレオになって真ん中にドーン。前に出してきたのね。綺麗に余韻が残る響き方、そしてジョンのボーカル。鳥肌から涙である。

『グラスオニオン』オリジナルは音が塊になっていて、それが結構迫力になっていて個性になっていたのだが、ニューミックスは正しいロックサウンドに化粧直しされた。

『ウォーム・ガン』これは神曲。最後のジョンの高音『ガーン』のボーカルでシビレまくり、もうどうにでもしてって感じ。

『ロッキーラックーン』これはポールの擬音、ボイスパーカッション、これが浮き上がり新鮮に響く。それにしても物語性のある変わった曲。

『アイウィル』このアルバム全般に言えることだが、アコギの音が素晴らしい。元からいい状態で録音されていたのか、リバーブでも施したか、オリジナルでは気がつかなかった繊細な指使い、音色が心地よい。

『バースデー』これはオリジナルの音の団子状態のイントロドラムロールが鳥肌ものだったのだが、ニューミックスは綺麗になった代わりに、その肉弾戦攻撃のような衝撃がない。旧ザクが肩で突進してくるような。それでも〜こういう音が重なっていたのか〜という発見も多い曲。

『エクセプトミーアンドマイモンキー』お気に入りの一曲。音のどんちゃん騒ぎ。

『グッド・ナイト』ストリングスの音圧が上がり、鳥肌もの。これジョンの作曲なのよね。リンゴのためになんて綺麗なメロディを書くのよ。ロックの子守唄。

 以上、捨て曲なしの圧巻、モンスターアルバムである。ぜひ新旧の聴き比べでお楽しみを。

 さて、今回は「隼のお正月」を読んだ。

 とても短いもの。タイトル通り、隼一家の正月団欒シーンから物語は始まる。新年の挨拶を交わし、酒が入る。一家といっても、血の繋がった家族ではない。

 色々な事情で世間からドロップアウトしてしまった者たちの集まりなのだった。

 そして新年早々、お秀は町に繰り出し電車で人ごみでスリを行う。

 この作品の見どころは(以降ネタバレ含みます)

 衆人環境の中、更に刑事が後ろで見ている中、露天の射的場で横に並ぶ男性から掏り取った財布、これがどこに消えたか、というもの。

 刑事はお秀を問い詰め、身体検査をするが財布は出てこない。

 周囲の人々も刑事を責め、刑事は逮捕を諦める。

 実は射的場の親父とお秀がグル、であったのだ。ギリギリの記述がある。

 お秀が銃でタバコを見事落とし、店の親父にタバコを分けるシーンがある。親父は恵んでもらって「かなわねぇな」とこぼすのだが、〜親父はあたしの手から鬼のような両手でバットをしゃくい取った〜とある。

 たかが軽いタバコの箱を両手で、それもしゃくい取るのはオカシイ、と読んでピンとこなければならない。

 瞬時に抜き取られた財布は、景品のバットの下に隠し、グルの親父が下からしゃくい取ったのだから。

 

1928年2月(探偵趣味)