呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

諏訪靖彦『小四女児連続自殺の解』を読む

 令和に入って、これまで昭和の探偵小説一辺倒だった読書傾向が少し変わった。

 始まりはkindleのアンリミテッドで佐川恭一さんの『サークルクラッシャー麻紀』を偶然に読んだことから、で

 

サークルクラッシャー麻紀 (破滅派)

サークルクラッシャー麻紀 (破滅派)

 

 

 これが滅茶苦茶面白かったのだ。他の佐川さんの作品も読み『世の中には電子書籍でこんなとんでもない才能を形にしている人がいるのか』と思っていたら、その後佐川さんは雑誌でコラムの連載が始まり、才能とは埋もれないものだなぁ、突出した才能は放っておいても出てくるものだなぁ、と世の中の公平性に安堵と感心をしていたら、次にアンソロジーの『モロゾフ入門』にぶつかった。

 

モロゾフ入門: 天才無国籍多言語作家を読む (破滅新書)

モロゾフ入門: 天才無国籍多言語作家を読む (破滅新書)

 

 これは前にもブログで紹介したが、架空の人物『モロゾフ』をお題に、各作家が好き勝手に書き殴る、といった趣向の本で、それまで文学とは『どうせ高尚で辛気臭いものだろう』という先入観があり敬遠していたのだが、ここまで面白いのなら、文学は自分の中で『アリ』だ。とまでカルチャーショックを与えてくれた一冊なのである。

 このアンソロジーに収録されている作品はどれも高水準で読者を笑かしにかかり、特に趣味に合ったのがカナエ・ユウイチさんと諏訪靖彦さんの二本だった。

 文学の最先端を覗きたいのなら、オススメの電子書籍だ。

 この中での諏訪さんは『エメーリャエンコ・モロゾフになった日』という作品を出しており、モロゾフなのに舞台は雪国の寒村。家に白羽の矢が突き刺さり、今年のモロゾフが決まる、というツッコミ所満載の話を、生真面目に淡々と描く、そのおかしみ。

 そして真逆の土着性と確かな(笑)方言で物語は進み、最後は何故か今年のモロゾフになった男が神殿で熟女に犯されそうになる、という、どこかの地方の風習で実際にありそうな展開に持ってくる。終始読者はニヤニヤしながら『なんでやねん!』を言わざるを得ない世界観で、文章で表現される『志村後ろ』的な笑いの空気は、諏訪さんの独壇場である。

 それで次の作品に手を伸ばした。それがミステリ作品である本書である。

 

小四女児連続自殺の解 (破滅派)

小四女児連続自殺の解 (破滅派)

 

 

 作品紹介でご本人は『亜本格ミステリ』と謙遜しているが、本書は正当なミステリ作品である。

 小学四年生のクラスを舞台に、子供が謎を追いストーリーは進行していく。前担任の女教師が、クラスで飼育していたウサギを殺し、辞職。その後、クラスメートの森本くんが失踪した。

 ウサギ殺しとクラスメートの失踪は関連があるのか?

 物語は終始『?』で引っ張られていく。一つ推理が進んだところで、学校の屋上から女子二人が飛び降り自殺をしたり、前担任の家に訪問した時、先に居合わせたクラスメートが翌日自殺したり、と、強烈な『?』で読者を牽引していく。

 この物語の裏側には何があるのか、何が起こっているのか、という進行の中、巧妙にミステリとしての伏線も散りばめられている。謎が派手で見過ごしてしまいそうになるのも作者の手の内。

 しかし驚くべきことは、このミステリ作品、ある大きな物語の一部なのである。

 

サイファイ・ララバイズ (破滅派)

サイファイ・ララバイズ (破滅派)

 

 

 続けてこの作品を読んだのだが、とんでもない所まで連れて行かれてしまった。長大な一大叙事詩、至福の読書体験であった。

『小四女児連続自殺の解』だけで物語は完結するが、この『サイファイ・ララバイズ』が裏側を補完してくれる。これは解説に記述がないので、セットで読むことをオススメする。