呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

諏訪靖彦『短編ノナグラム』を読む

 諏訪靖彦さんの最新刊『短編ノナグラム』を読んだ。引き込まれて一気読みであった。

 

 諏訪さんは最近私が知って追いかけている破滅派というグループの、佐川恭一さんとツートップのお気に入り作家さんである。破滅派二強と私は呼んでいる。

 今回はバラエティに富んだ短編集で、SFあり、ハードボイルドあり、ミステリあり、と内容盛り沢山であった。

 収録作は

・裸歩する男

・新世界が来るらしい

・私のご主人様

・祭りの終わり

・朝が焼ける前に

・オーディナリー・ワールド

・壊れた冷蔵庫

・イ=ドラによる福音書〜祈りを争い殺し合う〜

・密室バラバラちくわぶ付き死体の問題

 簡単に気に入ったものに対して感想を書き残しておこう。

『私のご主人様』は変形叙述ミステリの体でオチにかけた一発ワザ。最後の1行を読むときは背負い投げを食らった後だ。伏線は大量に蒔かれ、絵解きが終わった後は、誰もが同じ背景、情景を思い浮かべることであろう。

『朝が焼ける前に』は和製ハードボイルドのアプローチ。乾いた文体と死の匂い。結城昌治の現代版、といった香りがする。

『オーディナリー・ワールド』これも強烈な因果応報ハードボイルド譚。主人公が殺意を駆り立てる動機と背景が激烈に歪んでおり、それにそって極当たり前に物語は終焉を迎える。変格ハードボイルドといった、読んだ後に鮮烈な映像的印象を残す短編。

『イ=ドラによる福音書〜祈りを争い殺し合う〜』実は今回、一番楽しめたのが本作。諏訪さんはやっぱSFの人だなあ、伸び伸び楽しそうに書いてるなぁと再確認。異星人の目で異文化を解説するお得意の筆致が楽しくて目眩しそうであった。

『密室バラバラちくわぶ付き死体の問題』探偵小説日記を名乗るこのブログで、取り上げないわけにはいかない一本。読者への挑戦のついた作者曰く『バカミス』らしいが、なんのなんの、真相を見抜けませんでしたよ。で、解決篇も納得の作品。ホテルの一室でバラバラにされた白人の死体。股間には陰茎の代わりにちくわぶが。これは見立て殺人なのか、何なのか。謙遜な読者への挑戦に騙されてはいけません。骨太の一本だと思いますよ。ユーモアーも鮮烈。

 こういう商業出版では得られない読書体験が、Kindleのセルパブ本の良さだと思います。私は基本、探偵小説が好きですが、自分でも書くので、最近はセルパブの世界の楽しさに心を奪われています。

 ちょっとブログのタイトルと方向性も違いますが、今後、探偵小説の読書感想と、セルパブ本の感想は交互に出てくることになると思います。

 今後も面白いセルパブ本を見つけだし、ここで皆さんにオススメしていこうと思っております。