記憶力の低下が甚だしいのである。
単語を目にしても記憶が一向に立ち上ってこないのだ。例えば一世を風靡した「一杯のかけそば」一体どんな話であったか。
「まずは食券を買ってください!」
と冒頭で店主がブチギレする作品であったか。
いや、薄幸の人妻がブラウスのボタンを店内で外しながら
「このかけそばのお代金は、私の身体でお支払い致します」
みたいな結末であったか。
いや、子供が出てたような気がする。子供と一緒に食べたのだ。だから一杯のかけそばなのだ。
それを厨房から見ていた高校生のバイトが
「これマジ?(笑)」
と笑う内容であったか。いや、そんな不謹慎な作品ではなかっただろう。
全てがこんな調子なのである。
内容が全く思い出せないのだ。
あと、新しいものを吸収する意欲も低下している。思春期に慣れ親しんだものの再発とかリマスター版ばかり買って、まだ見ぬ聞かぬ名作に触れる機会を自分から潰しているようにも思える。
見てもいないのに「どうせこんな感じだろう」とタカをくくって理解した気になっているのだ。
・ゴッドファーザー 超怖い親分、巨漢、着替えも一人ではできない。トイレも御付きの人が支える。気に入らないとすぐ射殺。
・ニューシネマパラダイス ちょっとここでは書けないような内容のシネマを大量に手に入れた主人公。もう毎日がパラダイス!
・カッコーの巣の上 鳥が好きすぎて好きすぎて。三拍子のリズムを取りながら、カッコーの歌を唄い木に上るシーンは圧巻。結局、足が滑って巣を落とす。
・レインマン とんでもない雨男。肝心な遠足も、修学旅行も、その男が行くと全部雨。風邪で休めば晴れ。「俺は参加しないよ、みんなで行ってきなよ」そう言うレインマンをクラスメートが遠足に誘い、土砂降りの中歩く感動のラストシーン。
・ローマの休日 足元の通風口から扇風機を使ってマダムのスカートめくりを楽しむ男(あっ、マリリンモンローと勘違いか?)
いかん。やっぱりちゃんと名作は観よう。
※
さて、今回は「緑衣の女」を読み終えた。
江戸川乱歩「一枚の切符」の翌月発表である。異国を舞台にした冒険譚で、この辺りまでは松本泰が一歩リードしているように思える。
外国人の彼女、グリンに私財を持ち逃げされた泉原は、職に就くためかつての知り合いの富豪の元を訪ねるが…。
替え玉トリックや、現地の親日家の探偵と協力して捜査したりと、目新しい素材が並ぶ。
作品としてのパンチはちょっと弱く、持ち逃げしたグリンも同情を誘うような釈明もなく中途半端な感じが残る。
1923年(大正12年)8月「秘密探偵雑誌」