呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

古畑任三郎DVDコレクション1『死者からの伝言』

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 デアゴスティーニ古畑任三郎DVDコレクションを定期購読してしまったぁぁぁ!

 

 コロンボの形式、先に犯人が分かっていて物語が進む形式、これを倒叙物と呼ぶのだが、これが個人的に大好物で、木々高太郎の提唱した【探偵小説芸術論】この完成形に想いを馳せた時、この倒叙形式を突き詰めればなし得るのではないか、と考えてみたりすることもある優れた形式なのである。

 言うだけでなく自分でも実践してみたので、興味のある方は私の倒叙作品も読んでね(芸術論など遥か高みで恐縮ですが)

 

 さて、このコレクション、ブログで紹介するのはディスク物なので『だめなやつら』かな、とも思いましたが、ミステリですし、冊子も付いているので、このブログで紹介していこうと思っています。

 実は古畑シリーズ、ちゃんと観たことなかったんですよね。ブログやツイッターから、どんな感じのものなのか、情報としては知っていました。それに脚本は三谷幸喜。【真田丸】大好きでしたからね。期待も高まります。

 本編はテレビシリーズということもあり、一本45分の作品のようです。コンパクト、で無駄なく一発ネタで毎回勝負する作品のようですね。

 そして犯人役が毎回豪華ゲスト。これもコロンボに倣ったのでしょうが、こういう企画こそ、今も作られねばならないものでしょう。役者、脂の乗った演技、際立つ個性、贅沢な娯楽ではないですか。テレビならでは、テレビでしか出来ない企画でしょう。ユーチューブに押されているテレビ業界、本作のような企画だけでワクワクするようなものを作り続けてほしいですね。

 第一回目の犯人は歌姫、中森明菜。薄幸の才人ですよね。画面の明菜ちゃん、若い! ザ・ベストテン世代ですからね。あの頃の明菜ちゃんにまずトキメキます。

 

 ここからは核心に触れますので、未見の方はここでお引き取りください。

 本作のトリック、不慮の事故を装った殺人です。観ながら何かイチャモンを付けてやろう、という気満々でしたが、大きな傷もなく、さすがの三谷幸喜です。

 

 本作は少女漫画家の中森明菜が担当編集者に遊ばれて、動機が復讐の事故に見せかけた殺人という形。

 漫画家の住まいは豪華な洋館で、地下室に資料庫として大型の金庫が備え付けられている。金庫と言っても銀行に見られるような部屋のようなものだ。

・漫画家と編集者は、それぞれ家の鍵を持っている。

・以前にも勝手に重い扉が閉まり、その時は一緒に居たので助けることができた。

・死後三日は経過している。中森明菜は一ヶ月前に来たのが最後だ、と古畑に証言。

 嵐の夜、古畑と中森明菜のやり取りで進みます。事故で押し切るならともかく、館の鍵を持つのは二人だけなので、まず鍵の持ち主が疑われても仕方がないか、と考える。

 殺害時、中森明菜は閉じ込めてダイヤルをグルグル回すので、その辺で露見しないか、とも思ったが、館の持ち主なので指紋が残るのは当たり前、問題は相手が死にさえすれば良いのだから、ここは何とでも言い逃れができる。

 決定的なポイントは二つあった。一つは停電して明菜が夜食に料理を振る舞うシーンで、冷蔵庫の卵を躊躇なく使う。これに対して古畑が一ヶ月前に来たのが最後だと言っていたのに、普通の感覚なら一ヶ月前の卵を使わない。イコール数日前に来ていて、卵が新鮮なことを知っている、というもの。

 もう一つは金庫内に被害者のスリッパが片方なくなっていたこと。これは飼い犬がイタズラして片方咥えていったから。当日は雨で金庫内に犬の足跡はなかった。なので殺害時、犬がいた。ということは飼い主、中森明菜もいた、というもの。

 これで観念して自白、という流れ。

 頭を真っ白にしてみれば、ウォー、面白かったぁ。となる。物凄く上質な娯楽作品だ。ここまでのレベルでミステリとテレビ娯楽を融合できるのは三谷幸喜ならではだろう。

 しかし私もミステリはまぁまぁ読んでいる。この場で古畑に尋問されたら、難なく切り返すことはできる。

 一つ目、卵の問題、これを指摘されたらなんと返答するか。それはこうだ。

「一ヶ月前には卵はなかった。不慮の停電で料理を作る羽目になったが、冷蔵庫を開けてみれば使い切ったはずの卵が補充されている。これはきっと不慮の事故で亡くなった編集さんが三日前に入れておいたのだな、と思ったから躊躇いもなく使えた」

 というもの。完璧な言い訳だとは思いませんか? 私の場合、気が弱いのできっと目は泳ぐと思いますが(笑)

 そして決定打の二つ目、金庫内にスリッパが片方しかなかった。これもすれっからしのミステリ読みの私なら完璧に言い逃れできます。

「きっと編集さんは資料を探すうちに、重たい金庫の扉が閉まっていくのを離れた場所から確認したんだと思います。そして咄嗟につっかえねば、と判断したのでしょう。スリッパ飛ばしをして扉にかまそうとしたのです。しかしスリッパは扉をすり抜け、閉まってしまったんでしょうね。部屋の端にあったスリッパは、私が気が動転して被害現場を見ている横で、気づかぬうちに愛犬が咥えて別の場所に咥えて歩いた。だから金庫内になんの足跡もないんでしょうね。編集さんのご冥福をお祈りいたします」

 こう言いますね。

 でも、ここまで捻くれて難癖を付ける視聴者もいないと思うので、マイナス要素として捉えないでくださいね。本作をディスる気は全くありません。物凄く楽しめました。おススメです。

 興味を持たれた方は、ぜひ上のリンクからお買い求めくださいね。そうするとAmazon様から貧しい私に紹介料としてお一人様、二円か三円、チャリンチャリンと私の財布に入りますので藁にもすがる気持ちでお願いしながら筆を置きます。次はマチャアキの回でお会いしましょう。