呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

平林初之輔「オパール色の手紙」を読む

 この前、相棒の金平と神戸は三ノ宮へ出かけた。お目当はレトロゲームショップ、駿河屋さんである。

 そこで私の瞳孔を極限までおっぴろげたソフト。バーチャカメラマンシリーズである。

 複数の機種で出ているR18ソフトで、店頭で見たのは3DO版。1〜5が3500から5500円くらいの値段であった。

 なかなかな価格。

 コンプリートしたい病がムクムクと鎌首を持ち上げる。

 そして解散の後、ザイオン(屋根裏部屋)へ。

 私は過去の自分を褒めてやりたい。棚の一番奥へ、まるで嫁さんの目から逃れるように、セガサターン版「バーチャフォトスタジオ」が置いてあるではないか!

 

バーチャフォトスタジオ

バーチャフォトスタジオ

 

 

 何年も前に買ったままで、一度もプレイしていない。ビニール袋に入ったままだ。

 セガサターンの動作環境を整えたところなので、早速封を開けてプレイ。あまり期待せぬままスタートボタンを押した。

 何故ならば、この手のゲームは判定がシビアで、少しでもクリックのタイミングを間違えると、お姉ちゃんのムフフ画像が拝めない。どうせそんな作りだろう、と半ば諦めモードでプレイしたのだ。

 三人いる女性モデルの中で、一番巨乳の君をセレクト。

 ガビガビのムービーが再生され、その合間にボタンを押してベストショットをたくさん撮れば次のステージへ、そんな流れであった。

 そこで私は不意を突かれた。お姉ちゃんがいきなり服を脱ぎ出したのだ。子供向けのゲームマシンですよね? これ。そんな違和感の中、流れ続けるヌードシーンは乳首までバッチリ映っている。

「か、簡単に拝めてしまった…」

 突如襲いかかってきた吊り橋効果のようなドキドキ感。屋根裏部屋で私は、ブラウン管モニターをただ食い入るように見つめていた。

 ムービーは止まった。画面は切り替わりプロカメラマンの険しい顔が。

「やる気あんの?」

 私はムービーを見るのに夢中で、ボタンを一度も押さず、結局写真を一枚も撮れなかったのだ。

 そしてそのままゲームオーバー。

 会社で怒られ、嫁さんに怒られ、ザイオンでも怒られ。

 点滅するゲームスタートの画面を眺めながら放心し続ける私は、リトライする気力をすっかり失ってしまっていたのであった。

 さて、気を取り直して読書へ。「オパール色の手紙」を読み終えた。

 夫の不貞を怪しむ、奥さんの日記形式、という凝った趣向。 前回の「私はかうして死んだ!」は平林ミステリの一つの到達点であったように思う。

 今回はタネや文学的装飾よリも、奥さんの夫への不信感を情感たっぷりに描き出している。

 夫の部屋を掃除中、奥さんは知らない女性からの手紙を見つけてしまう。そこには夫と恋に落ちている様子が書かれた手紙であった。

 嫉妬に苦しむ奥さんの心境が日記に綴られていく。

 ここからはネタバレになるのでご注意を。

 手紙を部屋で読んでいる様子を奥さんは鍵穴から盗み見る。こういう趣向も江戸川乱歩の「覗き趣味」に通じ、当時のシーンを意識してのものかもしれない。

 夫は妻を呼びつけ、隠していた手紙を並べる。「愛する女ができたから別れろ」というのだ。一晩中泣き通しの奥さん。

 翌朝、夫は厳しい表情を解き「最近刺激がなかっただろ? 驚いた?」と妻に話すのだ。安堵する奥さん。

 しかしそんな時、郵便ポストにまたあの女からの手紙が! こっそり開封して見ると「奥さんを騙せたか?」みたいに書かれている。混乱する妻。

 果たして、これも夫の仕組んだ嫉妬させるための手紙なのか? それとも本当に女がいて、今朝の笑顔はごかますための芝居であったのか?

 作者は決定不能のまま筆を置く。どちらかわからぬままの結末で終わらせたのだ。

 ここで私は「夫が狂っているどキツい描写をもうちょっと足せば、アクが強くなったのにな」と思った。夫は完全に壊れ狂っていて、なおも嫉妬の手紙をでっち上げて妻の愛を求める。

 が、平然と朝食を取り、どちらか本当にわからない、という平林の演出も背景を書かないだけに不気味で、それで狂っていることを醸し出している、という演出もよくわかる。

 相棒の金平と演出の好みの違いが、最近話すたびに浮き彫りになった。あいつなら私の逆をいつも言うから、平然と日常を送るままの夫、の方の演出をとるかもしれない。

 理知的で静かな演出の平林初之輔。あぁ、創作というものは面白い。

 

1929年(昭和4年)9月「文学時代」