呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

松本泰「死を繞る影」を読む

 嫁さんとコストコに行ってきた。冷戦は一応ピリオドを打ち、停戦状態となった。

 私の要求した「ホットドック」と「ハーフピザ」も食べることができた(ご満悦)。

 それにしても日曜日のコストコは大混雑であった。年会費四千円近くだったか、そんなに払うのに、店中混み合っているのだ。

 駐車場でもベンツやBMWなど、高級外車が目立つ。利用者はちょっと「リッチ」な層のような感じがする。

 と言って私が「リッチな層」と自慢しているわけではない。我が家は「ちょっと背伸びした層」である。国産車で申し訳なさそうに駐車場にも滑り込んだのだ。

 コストコの特徴として、店内での試食コーナーが多い、ということが挙げられるであろう。

 私は嫁さんと別行動で店内をぶらつく。すると正面に試食を作っている私の好みの熟女、芸能人でいえば「ちょっと薄幸そうな吉瀬美智子」がミートボールを作っていた。

「中にはチーズが入ってございます」

 コストコアメリカンサイズは中々大きなものだった。ソースも美味しくて食べ応え十分である。

 私は舌鼓を打ちながら試食を食べ終わると、ウインクすれすれの熱い視線を吉瀬美智子に送る。きっと売上のノルマも彼女にはあるのだろう。

『待っていたまえ、妻に交渉して、いい返事を持って帰ってきてあげよう、なぁに、わけのないことだ』

 私は爪楊枝をゴミ箱に捨てると、軽く手を上げてその場を颯爽と離れた。小走りで嫁さんの所に戻る。

「買ってほしいものがある」

「なんやのん」

「向こうで売ってるミートボール、買って」

「ミートボール?」

「超美味しかったで。今晩食べよう」

「今晩はすき焼きの予定やがな。ミートボールは合わんやろ。今日はいらんな」

「れ、冷凍したらええがな」

「しつこいな、冷凍庫にはイシイのお弁当くんミートボールが残ってるんや。ダブる、ダブる」

 私のリクエストは見事に却下である。自信満々で吉瀬美智子に送った熱視線はどうなるのか。

 彼女に合わせる顔がない。私は別の方向を向きながら見つからないように、彼女の試食スペースをやり過ごすのであった。

 ※

 さて、今回は「死を繞る影」を読み終えた。

 長めの短編、短めの中編、という分量。テンポ良く章が区切られてスピーディーに進んで行く。

 海外を舞台にした犯罪譚で、泰先生お得意の、金髪の令嬢との甘いロマーンスも描かれている。

 結論から言ってしまえば、私は本作でコロッとやられてしまった。「意外な真相」を見抜けなかったのだ。

 どこで味わった感触だろう。「フランス白粉の謎」か「甲虫殺人事件」だったか。上手く隠されていて、これは泰先生の完勝である。

 ベストを更新、現段階では松本泰作品中、本作を一等に推す。そしてエピローグの若い男女の恋愛の、未来ある余韻を残す終わり方も格別である。

 上の二作がヒントになってしまったが、この「型」に私は本当に弱い。何度も騙されている。

 これ以上書くとネタバレになってしまいます。真犯人をどう動かしたか、どう会話させたか、其の辺りを読後思い返して見ると、二度楽しめるのではないでしょうか。

 あと印象的なのは、大正時代の作品でよく出てくる「活動写真に行ってきた」というフレーズ。これは「映画」のことだが、家庭用テレビジョンなどまだまだ先の話。大衆の娯楽の中心であったことが窺える。

 

1924年(大正13年)3月「サンデー毎日

松本泰探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)

松本泰探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)