呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

久山秀子「代表作家選集?」を読む

 備中松山城ツアーからの帰り道、中古ショップで色々買ったのだが、マックピープル時代に挿絵でお世話になった蛭子先生の漫画を買えたのは嬉しかった。

 ニューウェーブ作品でも、独特の「ヘタウマ」さ、で魅了する蛭子作品。

 

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 大半の方は、よく目にする背広を着たサラリーマンのカットを思いつくのではないだろうか。

 そして「下手だなぁ」と思われているかもしれない。

 しかし好き嫌いはあるだろうが、蛭子先生は「天才」である。学生時代、乱歩、正史、変格探偵小説、蛭子漫画、これらがセットになって思春期に吸収された。

 悪いものを食べて昼寝した時に見る悪夢のような、そして不謹慎でちょっとエロい要素。

 教師が生徒にバカにされて遂に切れて、とめどない暴力の果てに、殴り続けた生徒の頭が「ポローン」と人形のように取れてしまう漫画とか。

 現場検証の遺体写真の撮影時、写真に迫力を出したいと思った刑事が、被害者である熟女のスカートをずらして、情熱的に半尻で写真に納める、みたいな「なんじゃそれ」みたいな漫画とか、ちょっと他では味わえない。

 久しぶりに読んで頭を殴られたようなショックを思い出した。また集めようと思う。

 

復活版 地獄に堕ちた教師ども

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復刻版 私はバカになりたい

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私は何も考えない (1983年)

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私の彼は意味がない (1982年)

私の彼は意味がない (1982年)

 

 

 さて、今回は「代表作家選集?」を読み終えた。

 まことに愉快な一篇である。隼がスリとったのは四つの原稿。それを紹介する、という体裁。こういう稚気が真に探偵小説的で良い。前作の座談会での酷評、という前振りが創作の前提としてあるのだが、乱歩、潤一郎、甲賀三郎小酒井不木をネタにして、それぞれのパロディ作を書く、という力の入れよう。

 乱歩のネタは人間椅子を使い、血で書かれた手紙に恐怖しつつも、本家同様、こちらはちょっとスカした感じで落とす話。

 潤一郎は「銭湯での事件」という型に、このシリーズらしいオチをつける。

 小酒井不木のパロは、本物が人徳者なので、全く茶化すことなくパロディに徹している。

 そしてやっぱりというか、美味しいところの総取りが甲賀三郎へのディスりっぷりという(笑)

 この項を書きたいがために、他の三本を書いたのだろう。他の三本はミスリード、隠れ蓑である。

 甲賀三郎の軌跡を見るに、誤解の多い、敵を作りやすい人だったんだなぁ、と。森下雨村を怒らせ、探偵文壇から離れ、知らぬ間に相手を怒らせている人、そんな印象を受ける。

 久山秀子に「我輩の癖として少々脱線したが」とまで書かれている。後輩に文体の乱れを指摘されているのだ。秘められた悪意の埋蔵量はピカイチである。個人的には甲賀三郎の文体は強引さも含め好きですけどね。

 それもこれも甲賀三郎が座談会で「この作者にはこのような作品を書いてもらいたくはない〜略〜地下鉄サムには毎回新しい試みがあったが」と、このシリーズを全否定したせいである。