ちんかすのような仕事に日々追われ、消耗しきっていた私に、一年に一度のご褒美、とも言える相棒金平との城&御当地グルメ&中古ショップ巡り。
体力の続く限り赴いた地での散策は続く。快調に飛ばし、次は古本市場へ16時過ぎに着。
ブックオフと古本市場しか、もう元気がないように感じる。ここ五年の間にブックマーケット、ブックマート、その他地元オンリーの中古ショップは軒並み姿を消した。
そりゃそうだ。街からCDショップ、新刊書店が消えているのだから。大量消費の時代は終焉を迎えた。今は年収300万以下時代、若者の断捨離、晩婚少子化。
中学校のクラスが14組まであった我々の世代とは価値観が違う。
私が時折記す全国の中古ショップの写真も、数年後には貴重なものになっているかもしれない。
古本市場では佐野洋の短編集を買う。短編集は寝る前に一本読み、勉強するつもりでいつも買っている。
そして自販機で『ルーマニアで人気』という謎コピーに惹かれ、ファンタを買う。これはライチ系の味になるのか??
陽も沈んできた。ラッシュアワーか、道路も混みだしてくる。
カラスが我々に向かって『アホー』と言った、ような気がした。誰がアホやねん! 私は言い返す。
ここのハードオフではお宝に遭遇した。
「お、おい金平、このショーケースを見てみぃ」
「うわ、なんじゃこれ」
腕時計である。それも仮面ライダーの変身ベルトを模した本格的で重厚なウォッチだ。ダブルタイフーンの中が針になっている。超オシャレ。
しかし値段を見ておったまげ、であった。
「くおぉ、これ欲しいけど高いなぁ」
「こんなもん買って帰ったら、また嫁さんに締め出されるど(笑)」
友の助言はごもっとも、である。しかしこの時計、身につければモテるのではないだろうか?
「君の前で超変身したい」
と、まゆゆ似の彼女に言えば、どうなるであろうか。進展するであろうか。ドン引きされるであろうか(笑)
「何ニヤニヤしてるねん呉、買わへんのなら行こか」
私はお宝時計に別れを告げて店を出た。
そうしてようやく本日のお宿、福山ステーションインに到着する。お城も近く、絶好のロケーションである。この距離ならば、ギリギリまで寝て、開城と同時に歩いていけるではないか。
カウンターに進むと、先客が先払いなので支払いをしている最中であった。我々よりも若い、工事業者のような制服を着た若い二人組であった。
出張作業を終えたのであろうか、疲れた顔で受付をしていた。
「では一人一万二千円、お二人様で二万四千円頂戴いたします」
受付の美形の女性が丁寧に応対する。そして我々の番だ。我々は今年でオン歳五十。先ほどの若者勢とは風格が違う。顔には年輪のようにこれまでの苦労が刻まれていた。
「大変お待たせいたしました。二名で姫路からご予約の呉様、お一人様三千五百円ですので七千円頂戴致します」
そこで先に会計を済ませ、エレベーターに乗り込んでいた若者二人が、ドアの閉まる間際、鼻から吹いたような気配を感じた。
軽い恥辱!
私は貧乏旅を恥じながら、震える手で財布を尻のポケットからまさぐる。辱めを受けた心は手を痙攣させ、上手く財布が取り出せない。
それもこれもケチケチな嫁さんのせいだ。他の亭主は『友人と旅行に行く』と言えば、三万くらいポーンと渡してくれるのではないだろうか。
私は月二万の小遣いから旅行用にコツコツ積み立てをし、電子書籍の印税を足して、やっと一泊旅行できる境遇なのだ。
なので財布に綺麗な万札など存在しない。
支払いの七千円は、財布の中でシワクチャになった千円札を一枚づつ伸ばしながら、美人の受付お姉さんに手渡すのだ。一マーイ、二マーイ。
ワシはお岩さんかっ!
色々申し訳ない感じで部屋のキーを手渡される。五十になってこの旅の内容。若い頃の二人は『お互いビッグな作家になろうな』と目を輝かせて青春を語り合ったというのに。
無言で通路を歩く。そして肩を落としながら二人して部屋へ逃げるようになだれ込んだ。
「狭っ!」
本当にベッドと机とバストイレのみであった。でも文句は言えない。このような格安料金で素泊まりを提供して頂けたのだ。
我々のような貧乏旅行者にも優しく出迎えてくれた福山ステーションイン、最高でした!
※旅の終わりに配信したツイキャス その1
〜続きます〜