呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

香住春吾『地獄横丁』を読む

 本日は盛林堂ミステリアス文庫の『地獄横丁』香住春吾を読み終えた。分量的には中編になるだろうか。それでも読み終えるのに二日かかるのだ。速読の人が羨ましい。

 

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 通俗スリラー作品で、新聞連載作品だったということもあり、展開もスピーディーでサービス満点である。

 特ダネを追っていた新聞記者の波川は、場所も定かではない阿片巣窟『地獄横丁』の噂を聞きつけ、単身乗り出すもビルの屋上で無残にも射殺体で同僚の元新聞記者、主人公である原鉄兵に発見される。

 裁きを警察に任せず、同じ場所で同じ目に合わせる事を誓う鉄兵。

 そこからはじまる物語はアクションあり、お色気ありで、読みやすい文章と相まって一気に読ませてくれる。

 自慢するわけでもないのだが、長年探偵小説を読んでいると、すれっからしになり、ある部分まで読み進めると、作者の埋め込んだ『仕掛け』に注意がいき、真犯人の目星がついてしまう。楽しもうと思えば、子供のような無心さで読むのが良い。

 犯人は内ももに入れ墨のある謎の黒メガネの女。追いかける過程で、時折現れては乱闘になる地元のヤクザ。何度か付け狙われるのだが『燃えよ剣』に通ずるものがある。

 そうして私がこの作品で一番印象に残ったのが、主人公の見る淫夢のシーンである。登場人物である三人の女性が、裸で鉄兵のベットの前に現れる夢。

 見た後で鉄兵は死んだ友人の恋人である女性に対して、そんな想いを持った事を恥じる。

 こういう人間の駄目な部分を、赤裸々に書くところが好きだ。作家として信頼できる部分である。

 ストーリーはバットエンディングの部類に入るのではなかろうか? ピンチの時に都合良く前を通りかかる車に乗り込んで逃走したり、とリアリティを求めたら目くじらも立とうものだが、終盤、盛り上げて未練も無くスパッと終わるのも通俗小説の醍醐味だろう。

 まだ在庫があるようなので、レアな小説好きな方はお急ぎを。