呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

佐々木俊介『魔術師・模像殺人事件』を読む。

 佐々木俊介『魔術師・模像殺人事件』収録の『魔術師』を読んだ。

 

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 ミステリ、というよりも探偵小説、という呼び方が似合う作品である。探偵小説好きにはたまらない世界観と空気だろう。

 まず島、が舞台。それも実業家が無人島を買い、そこへ中世の洋館を建て、四人の子供に英才教育を施し、学校にも通わせず、島からも出さない。

 リアリティが、荒唐無稽、という真っ当な意見など、この作品に対しては的外れ。

 読み進めた事件の推移と、冒頭で、その洋館に住んだ唯一の生き残りに聞き込みをした内容が、終盤で食い違う。

「え? なんであの人から死んだの?」

 慌てて読み返す。いや、間違えずに読んでいるはずだ。この作品の肝は、孤島の、洋館内で起きた事件の、死亡順が違う、という豪速球が、無理なくミットに収まる。これに尽きる。

 復讐するための方法も「それ本当に出来る?」級の内容でニヤニヤしてしまうほどだ。探偵小説とは、そこまで陶酔するものだろ? という宣言を聞いているかのようだ。

 併録の『模像殺人事件』も楽しみである。