呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

古畑任三郎DVDコレクション2『笑える死体』

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 デアゴスのマガジンとDVDがセットになったシリーズの第二弾。

 エピソード3『笑える死体』を観た。今回は犯人役に古手川祐子である。若い! イイ女(笑)。

 

 初っ端から真相に触れていきますので、未見の方はご覧になってからまたお越しください。

 本作は同じ倒叙テレビシリーズのコロンボのフォーマットに沿った、まず犯行シーンを丁寧に見せてから古畑登場、という流れ。

 1回目の試聴では感心した。良くできてるなぁ、と。完璧な逆算の物語、である。ミステリにおいて、神の視点でも無い限り、過ぎ去った事件に対して、決定的な証拠、というものは難しいものである。

 その決定的な証拠は冒頭、古手川祐子と被害者が自宅で食事をしているシーンで被害者が思わせぶりに天井をチラ見して、視聴者に伏線として提示している。

 しかしこれは【推理】という形とはちょっと違う、視聴者を感心させるためのショー的な装置、であり、終盤古畑が気付かなければ(気付かせる為に紙吹雪をテーブルに落とす用心さ)機能しないものである。

 古手川祐子の行った犯罪は【正当防衛】である。帰宅時にストッキングを被った強盗が室内に居た為、バットで咄嗟に頭を殴って殺してしまった、というもの。

 被害者は別の女性と婚約してしまった。プライドの高い精神科医古手川祐子は、踏み躙られた気持ちが殺害動機へと繋がり、自分の誕生日を祝いに訪れた被害者に罠を仕掛ける。

・被害者の不意のサプライズ訪問、古手川祐子が帰宅するまでにこっそりと誕生日パーティーを準備していた。玄関先、クラッカーで祝福、ワイン、ケーキ、手料理、オーブンには鳥の丸焼きも用意していた。

古手川祐子は窓辺に立ち、泥棒を見た、という嘘をつく。見てきて、と被害者に頼む。

・被害者は表に出るが、当然泥棒などいない。その時、古手川祐子は玄関の鍵を閉める。締め出された被害者はドアホンを押すが返事が無い。

・その間に室内では古手川祐子はシャワーをひねり、風呂場に入っているように偽装する。

・締め出された被害者は、金属音を聞き振り返る。裏口のドアが開いている。裏口に周りベランダから侵入する。古手川祐子は夜のベランダにわざとストッキングを干す。

・よじ登ってベランダに侵入した被害者は、持ち前の性格から強盗を装い、ストッキングを被って音のする風呂場へ向かう。

・驚かすが、当然風呂場には誰もいない。振り返るとバットを持った古手川祐子が。ストッキングを脱ごうとする被害者の頭部を殴打。

 ここまで見てどうだろう。ストッキングを被らなければどうするのだ、という問題は被害者が被り物をして仲間を喜ばせる性格、という証言を得ている。

 そして三谷幸喜流のユーモアとして、脱ぎかけのストッキングの変顔、というギミックも効いている。それを検証するために古畑がストッキングを被ってタバコを吸えるのかどうか、のシーンも笑いを誘う。

 自宅に押しかけて料理をし、古手川祐子が料理が苦手なことを確認する。最初の現場検証でオーブンの中に入っていたものを引っ掛けで尋ね、正解が出なかったことで疑いを持つ、というのも効果が出ている。

 そして終盤、古手川祐子と被害者を結ぶ線が、医者と患者の(それも盗癖で診察という周到さ)関係だけで、何も無い、という言い分をビジュアルでひっくり返す装置、名前入りのくす玉で、ぐうの音も出ないところを視聴者に共感させる手際は見事である。

 が、私もすれっからしのミステリ読み。感心しつつも重大な欠点に気付いてしまった。純粋に楽しめない悲しい性である。

 天才呉エイジの(笑)気付いた点、泥棒がいる、と嘘をついて表に出させた。そこから描いた地図通りに完全犯罪は行われた、とはなっている。ストッキングを被ればそれは強盗だと思う。

 しかし、だ。締め出されてドアホンを押し、裏口に回る。何故裏口に回る。玄関から入れば良いではないか。サプライズで留守中に侵入したのではなかったのか? 被害者は【鍵を持っていた】のである。

 舌打ちして玄関前に立ち尽くす被害者。室内に入れないで困ることは何も無いのだ。そこで来た通りにまた鍵で侵入すれば良い。が、そうなるとストッキングを被れず、物語が根底から崩れる。

 ユーモア脚本家の三谷幸喜にそこまで求めるのは酷であろう。

 ワインで乾杯する室内のシーンで、ポケットから合鍵を出しテーブルの上に置くシーンと、締め出された時に『しまった鍵はテーブルの上だから正面から入れないや』というカットを入れておけば、本作は完璧な物語として仕上がった。