呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

平林初之輔「評論」を読む。その4

 嫁さんがママ友らと居酒屋で飲み会だ、というので晩ご飯代千円を貰って(うわーい!)かつやさんに行き、とんかつ定食を食べ、布団に入り平林初之輔探偵小説選2を読んでいたらiPhoneが鳴った。

呉「もしもし?」

嫁「迎えに来て」

呉「ええっ? お前タクシーで帰るって言ったじゃーん」

嫁「迎えに来て」

呉「俺風呂にも入ったよ、もうパジャマで布団だし」

嫁「迎えに来て」

呉「お前さっきから迎えに来てしか言ってないやん!」

嫁「駅南におるからさっさと来て」

 電話は一方的に切られてしまった。仕方がない。声の様子から相当飲んでいるようだ。

 姫路バイパスを飛ばして駅南へ、大きく手を振りながら千鳥足で歩いてくる。べろんべろんである。

呉「相当酔ってるな」

嫁「よく来てくれた、賢い賢い」

呉「うわー、髪の毛ぐちゃぐちゃになるから撫でるな」

嫁「酔っ払ったー」

呉「早く帰ろう」

嫁「ご褒美にチューしてやろう」

呉「いいから、いいから、酒臭いよ。車ぶつかるし」

嫁「ええ気分やわー」

 慎重に運転して家まで連れて帰る。

嫁「え? もう着いたんか? 少し車で寝かせて」

呉「あかん、あかん。風邪引くから家の中はよ入れ」

 愛犬が大喜びで嫁さんをお出迎え。

呉「おい、風呂どないするんや?」

 嫁さんはリビングのソファーへ一直線で倒れこんだ。

嫁「絶対に入るからな、あんた責任持って起こしてや。六時間後に起こして」

呉「そんなもん、もう朝やがな、朝風呂やがな」

嫁「だはははー」

 自分のギャグを自分で笑っている。笑いながら寝てしまった。

『賑やかな嫁さんだなぁ』私は押し入れから毛布を取って来てかけてやった。六時間後でも起きそうになかった。

 ※

  さて、エッセイの中でも日本の探偵小説に関する評論を選んで読んでいきたい。続いては『「陰獣」その他』を読む。

 それにしても平林初之輔江戸川乱歩に対する評価の厳しいことよ。自身はどうであったか? 乱歩の陰獣前後は「人造人間」これは人工授精を扱った欺瞞で、不倫の末の悲劇を描いた作品、次に「動物園の一夜」これは奇抜な犯罪巻き込まれ型の都会の冒険譚という趣で、乱歩の初期短編に匹敵するものは、創作として達成していない、と思えるのだが。

 本人としては創作と評論は別、という立ち位置であったのだろうか。

 乱歩も「陰獣」は相当な自信作であったことだろう。横溝正史の告知も手伝って、雑誌も飛ぶように売れた。

 それを「読後爽快感が欲しい」「無解決は不快な状態である」「女が化粧の度を越して醜くなったような感じ」と、相当手厳しい。

 乱歩にしてみれば「これ以上どうしろというのだ」という気持ちになってもおかしくはないだろう。

 乱歩が沈黙してしまった責任の一端は、平林初之輔の評論にあるのかもしれない。

 そして探偵小説文壇のぬるま湯的批評ムードに檄を飛ばしている。甲賀三郎もはっきりと意見を主張し、探偵小説のためにやりあえ、とまで言っている。

 これも甲賀がのちに探偵小説講話などを書くきっかけになったのではないか? と思わせる。

 少年雑誌の投書欄のように、互いの作品を当たり障りのない言葉で褒めあっていては未来はない、と。

 これは当時の探偵小説文壇に、相当大きな波紋を投げかけたことだろう。

平林初之輔探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)

平林初之輔探偵小説選〈2〉 (論創ミステリ叢書)