呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

自然 先紀「ショッパイ河を漂って」レビュー

  さて、せっかく新ブログを立ち上げたのだから、自分なりに何か新しいことをやってみよう、と思い立ったのである。

 振り返れば私は、ネットを通じて絶えず創作や、創作に励む方々へエールを送ってきた。古くはKure'sHomePageのアミーゴシステムとか(何人が覚えてくださっていることやら)

 私がホームページを立ち上げた頃、ネットはダイヤルアップで写真一枚を表示するのに数分かかった。表現するのも制限だらけであった。

 それが今やkindleを使えば、自分の個人誌が、自分で価格を決めて、全国に発信できる、そんな夢のような時代になった。

 そこで個人配信のkindle本を取り上げてここでレビューし、ここを見てくださっている方が興味を持ってくださってポチってくれれば、向こうの売り上げに繋がり、また相手先の方も私の運動に賛同してくれれば、向こうで私のkindle本をレビューしてもらって、向こうのお客さんが私の本をポチってもらい、お互いが健全な形でウインウインな関係となる。

 そういうモデルを作っていきたい。「レビューラリー」と題して不定期でも継続できたらな、と思っています。

 昔から私は「創作賛歌」な人間なのであります。

 今回取り上げるのはツイッターで知り合いました、じねんさん(@jinensai)の本を取り上げて見たいと思います。

ショッパイ河を漂って

ショッパイ河を漂って

 

 実はじねんさんは、私の「面白リツイート」の仕入れ先の筆頭家老なのであります。「あっ、これ面白い」と思って反射的にリツイートし、よく見てみればじねんさん経由のだった、というのが多々あります。

 これが何を意味するのか。じねんさんの面白アンテナは確かである。という証明になるのです。

 この本はタイトルを見て「どういう本なのだろう?」と思われた方も多いと思われますが、ミステリ短編集に分類される本です。

 早速内容を紹介していきましょう。

 本書は四本の作品、および評論で構成されています。

1 序に代えて ─ ─ 逆転無罪!? 『自転車に乗った男』

2 ドリトルのドア

3 評論 ─ ─ 明かしの美学・推理小説の死角

4 ショッパイ河を漂って…ジャック・F・譚/自然先紀 訳

 まず初めに私の評価を言ってしまえば、じねんさん御本人は、肩の力を抜いて書いた、と思われるのですが、この『自転車に乗った男』これが私のベストトラックである。

 ページ数も短いし、本書のイントロダクション的な位置付けの作品だが、これは子供向けの他愛ない推理クイズ、これに大真面目にツッコミを入れる、という構成なのだ。

 しかし子供向けでも筆は容赦しない。自転車が鍵となるアリバイトリック、この出題者の軽いノリに、じねんさんは新たな解釈と模範解答を提示してくる。

 読む方は「子供向けのトリック本なのに、そこまでマジにならんでもエエやん!」とか「何個仮説を出してくるねん!」と心の中でツッコミながらも、じねんさんはまるで「冤罪を晴らす」かの如く、綿密に検証していく。

 この大真面目さがユーモアを醸し出している。

 続いて2本目「ドリトルのドア」これは純オリジナルなミステリ短編である。

 犬(セントバーナード)消失をめぐる家族と主人公との話で、密室トリックも盛り込まれている。

 この作品の特徴は、短編ミステリだとパズルの体裁が浮き立ってしまう作品も多いが、この作品はその奥にそれぞれの「犬を可愛がる心」が描かれていることだ。

 じねんさんは大下宇陀児を読まれたことがあるだろうか? 情操派に分類されるその作風は、パズルだけに終始せず、人間の心の機微を捉えて描くことを特徴としていた。

 私は大下の作品「青ライオン」で、解決後の余韻のシーン、おかみさんの家の蚊帳が壊れて困っている、という冒頭の話の振りから、町内の人が工面するラストシーンを読むだけで涙腺が刺激されるタイプの人間である。

 そして私も犬を二匹飼っている。そんな犬好きな私が、作品内、小さい子供が愛犬に寄せる愛情を読んで、心掴まれないわけがない。

 パズルが解けた後、人間の心のピースも埋まる。そういう作品である。

 3本目はミステリ評論である。

 私の探偵小説読書歴は相当長く、本格ミステリに憧れて、何冊も読んで「自分でもいつかは」と思っているのだが、いつまでたっても骨法を掴めない。

 最近気づいたのだが、これは思春期の多感な時期に読んだ本が大きく影響しているのではないか? ということだ。

 私の場合、それは乱歩の変格寄り作品、夢野久作、横溝の初期耽美作品、鮎川哲也編の「怪奇探偵小説集」この辺りを貪り読んでいた。

 そうして自分の書くものも、そういう傾向のものが多い。

 このじねんさんの評論を読んで思うことは、多感な時期に読まれた本が、正当な本格作品だったのでは? ということと、学者的な気質だなぁ、ということ。

 気付きの視点が、私からはどれも出てこないものばかりである。

 そして4本目、一番ボリュームもある表題作「ショッパイ河を漂って」これは名称等は変えてあるが、実際の事件を題材にしたミステリである。

 船上の火災殺人事件で、未解決事件。不勉強ながら私はこの事件のことは知らなかった。

 安楽椅子探偵モノの趣向で、新聞記事が続いていく。事実を並べて読者にも探偵をさせ、山本禾太郎(記録形式によるリアリティの導入)の作風も思わせる。

 関係者の証言、現場の様子など、警察資料に近い形で読者は受け取ることができる。私も色々考えて、私なりの犯人像を描いてみたが、じねんさんとDMのやり取りをしてビックリ。何と犯人は違う人を予想しておられた。面白いではないか。

 未解決事件なので、解決はない。真相は闇の中であり、本作でも「犯人はこいつだ」という指摘もない。

 あなたもどうです? あらゆるデーターを前に、自分なりの犯人像を炙り出してみる、という知的遊戯は。

 

ショッパイ河を漂って

ショッパイ河を漂って