家に帰ると子供達はそれぞれの相手とデートに出払って、夕飯は嫁さんと二人だけとなった。
「二人なら外食でも行くか」
嫁さんがそう言うので、反対する理由もない。
「じゃあ焼肉でも行くか」
馴染みの焼肉屋へ直行した。
夏バテ気味であったので、スタミナをつけようと、私もハイペースで注文した。
「アンタ、平凡な日常にドキドキ感足さへんか?」
食事も終わりに近付いた時に、嫁さんがいきなり切り出してきた。
「ドキドキ感ってなんやねん」
「じゃんけんで負けたら、ここの勘定奢るっていうの」
「な、なんで家族の食事を小遣いから出さなあかんねん。ワシにメリット何もないやんけ」
「アンタが勝ったら、ここの代金の金額小遣いあげるわ」
「ここお前が払って、なおかつここの代金の小遣いを今貰えるってか?」
「そうそう」
私は悩んだ。二人で六千円は食べているだろう。ちょうど欲しい本もあった。
「ええやろ、乗った」
「行くでー、一発勝負やー」
嫁さんは店内であるというのに、手をねじって覗き込んでいる。本気のやつだ。
「じゃーんけーん」
呉「パー」
嫁「チョキ」
勝負は一瞬でカタがついた。
嫁「勝ったー! やりぃー。家計浮いたーっ!」
店内でプロレスラーのような咆哮である。
「ま、待って、冗談やろ? ガチで? ガチでワシのこんな少ない小遣いから六千円も払わせるの? 暑い中頑張って働いてるのに? 嘘でしょ?」
「往生際の悪い男やな。私は勝負って言ったはずや。アンタ、ここ一番の勝負弱いな(笑)」
嫁さんは上機嫌である。レジで私は死人のような顔で会計を済ませた。
うつ病になりそうである。読書もできる気分ではない。
こんな一日、早く終わってしまえ。おやすみなさい!