本日、相棒の金平と備中松山城へ行ってまいりました。
呉「今度、我が妻の表紙描いてくれるお礼にな、今日は木造現存天守、備中松山城に連れて行っちゃる」
金平「ワシ、ヘルニア持ちやのに、何の罰ゲームやねん!」
朝の八時半から集合しての珍道中。何回かに分けて書いていきます。
今日はこの遅読な私が、一日で読み終えてしまった作品、私の読書スピードは面白さに比例するのですが、早坂吝先生の「◯◯◯◯◯◯◯◯殺人事件」をご紹介しましょう。
タイトルで分かるとおりミステリ作品ですが、とんでもない大技が仕込まれております。
私の心の琴線にビンビンくる仕掛けで、解説にもある通り「世の中を舐めきった作品」という形容がピッタリだと思います。
本格か? 変格か? いや新変格だろう、いや手法は本格だ。などといろいろ考えながらの再読です。
ノベルス版で読んで、加筆訂正されている、というので細部を観察しながら読み進めました。
絶海の孤島での殺人事件です。探偵が終盤、一同に集め謎解きもします。古き良きスタイル。
それでもこの作品の「大技」は、大多数の人は見抜けないでしょう。
ネット上でネタバレを喰らう前に、どうかこの稚気に溢れた問題作を読んでいただきたいものです。
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さて、今回は「娘を守る八人の婿」を読み終えた。
この作品は子分を三十六人も抱える隼お秀が、まだ駆け出しのスリだった頃の話。
私自身、久山秀子が「男性作家である」ということを既に知っているからかもしれないが、やはり男性が想像する女流作家の書き方をしているな、と感じる。
この作品は隼お秀が劇団に所属し、美人なので劇団員の男性からヒロインに抜擢される。というお話。
ここでお秀が八人の男性に対し、劇中頬を寄せたり、首筋に唇を這わせたりして、男性連中がメロメロになるのだが、こういう書き方が「男性脳」だな、と。
それらを小馬鹿にして、隙をついて身につけている本物の小道具、高価な指輪や時計をお秀がスル、という痛快作なのだが、この作でお秀が「秀でた美貌の持ち主」という設定も与えられる。
本当の女性作家というものは、個人的な意見だが、脳の構造が全然違うんだろうな、という怖さがあって、とても思いつかないことや視点を見せられると、お手上げな感じになる。
松本恵子の諸作を読んだ時にも感じた「畏怖」だ。夏樹静子を読んだ時にも感じる感覚かな。
そしてこの作品、座談会で探偵作家が合評しているのだが、そちらの様子が本編の何倍も面白い。
甲賀三郎が批判的だったり(やっぱりな)江戸川乱歩が驚くべきバランス感覚で公平な意見を述べていたり、延原謙が支持していたり(やっぱりな)。
本作は「何でもスル無敵のお秀」では軽いので、最後に死別を絡ませました、みたいな構成になっているのが惜しい。紙面の都合だろう、取ってつけた感が否めない。
1926年5月「新青年」
寝不足であります。昨日もこのブログを更新しようとして起動したまではよいものの、そのまま机に突っ伏して、寝落ちしてしまいました。
今日もフラフラで、酔拳のような感じで頭グリングリンしながら更新しております。
先日、このブログのアフェリエイト収入の通知があり、有り難く本を注文しました。
国書刊行会の「探偵クラブ」シリーズです。
本が欲しいから、本を書く。なんという健全な動機でしょうか。
このリンク先に一度飛んでみてください。私は本を買う際にレビューも重要視するのですが、このレビューで「秋風」に関するレビューを読んで一発でそそられました。
「面白い」と誰かが言えば、もう読みたくて仕方がないのです。
大当たりの時もあれば「ん? この人のオススメとは感性が違ったようだ」みたいな時もあります。
ネットをやっていて良かったな、と思うことは、自分のアンテナでは探しきれなかった面白い作品を知ることができる。
これに尽きますね。
わたくし、ネット上では「呉エイジ」を名乗っておりますが、会社では写真家「篠山鬼神(ささやまきしん)」と名乗っており、みんなから「なんじゃそれ!」と言われております。
その篠山鬼神が、今日の昼までの会議の帰り道、激写しながら駅まで歩いた作品をここにご紹介しましょう。
まず1枚目。
モノクロで撮ってみました。この小僧は何を考えているのでしょうか。
「このハンバーグを割ったら、チーズ出てきたらいいなぁ」みたいな感じでしょうか?
続いて2枚目
これはもう昭和テイストの玄関だけでビンビンきましたね。打ち付けてある板とか、たまりませんよね。ちょっと小洒落た感じになってしまい反省。面白さが勝って欲しかった。
反響があれば写真家「篠山鬼神」の活動を、ここでご報告させて頂きます。
それでは今宵はこの辺で。
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さて、今回は「浜のお政」を読み終えた。
本作、掲載誌は「新青年」とは違い「探偵趣味」である。別の雑誌にシリーズキャラクターものを出していた、ということか?
紙面に合わせてか、枚数も短い。
浜のお政、という隼お秀のライバルが登場する。美人局だ。そのライバルとのコンゲーム、といった趣。
しかし、短い枚数でびっくりさせたい、とはいえ、筋は結構強引である。隼お秀の特技が「スリ」だけでなく、見た目が中性的で変装も上手い、という初期設定を頭に入れておかないと、まんまと騙されることになる。
この当時に流行ったであろう、最後にドキッとさせる軽妙なショートストーリー。娯楽に徹しているので、嫌いではない。
久山秀子、思っていたより楽しめる。
1926年3月「探偵趣味」
この前の休み、ジムが休館日の時にも家でトレーニングが出来ないか、と思い、リサイクルショップへダンベルを探しに行った(新品を買えよ!)。
3キロくらいのやつが欲しくて、見れば丁度棚にあった。
だが一個!
値段は五百円でリーズナブルであったのだが、なぜ一個か。売った奴は二個買わなかったのか? だいたいダンベルのトレーニングは、二個を両手に持ち、フンッと。フンッ、という感じで腕を曲げて持ち上げるのが基本なのではなかろうか。
何故、一個なのか。
「とても愛着があるから売りたくない、しかし金が急に必要になった。涙を飲んで一個だけ売ろう」
他のものを売れよ、と。右手だけ持ってトレーニングしたら、身体が傾いて気持ち悪いではないか。
いや、売った奴はマトモだった場合どうする? ちゃんと二個売って帰ったのだ。買った奴が一個だけ買って帰ったのだとしたら。
「しまった、財布に五百円しかない! 仕方ない、一個だけ買って帰ろう」
二つ買えるようになるまで買うなよ、と。
いや、店も手落ちがあるだろう。こんな中途半端な形で売るなよ、と。買い取った時に、紐でくくって「二個で千円」として売るべきではないのか?
なんでこんなフリーダムで気持ち悪い売り方をするのか。バラでオッケーにしたら、本当にバラで買って帰るフリーダムな奴が出てきてしまったではないか。
「そんなこと言ってもお客さん、こちとら商売なんです。こんな不景気な世の中で、一個だけでも売れてくれれば、こちとら万々歳なんですよ。それにウチの経営方針にケチつけないでくれますかね」
と、店長も喧嘩腰で言い返してきたらちょっと怖いではないか。
仕方がないから、その横の一個一キロの二個でワンセット、二百円を手に取ってみた。
合計2キロかぁ。ちょっと物足りない。だがこちらは二個一組だ。気持ちがいい。
私は両手に持って構えてみた。
その時、私のサイコメトラー能力が発動した。
前の持ち主の幻影が目の前に浮かんだのだ。オレンジのシャツを着た超肥満のデブオタである。
毎日、これで鍛えていたようだ。しかしたった2キロ。身体は全然変わらない。デブオタは僅か半月で、これをここへ売り払ったようだ。
気持ちの悪い汗がダンベルにべっとりと付いている。可愛い女の子なら迷いなく買ったことだろう。
どういう理由づけがしたいのか? 一度手にとって買わない理由づけで、ここまで妄想しなければならないのか?
私はデブオタのダンベルを、買わずにソッと元の棚へ戻した。
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さて、今回は「チンピラ探偵」を読み終えた。
印象だけで見くびっていた。久山秀子、 なかなかの手練れである。グイグイ読ませる。本格・変格というムーブメントとは関係なく「地下鉄サム」を輸入し、女スリを主人公に「いい話」を作ろう。という気概と姿勢が見える。
厳密な本格、というよりは女スリが向き合う犯罪譚、といった趣だ。
今回は冒頭で色魔の男爵が帰宅途中の自動車の中で射殺される。窓ガラスは割れている。運転手は「ガラス窓の割れる音がして、怖くなり慌てて家までお送りした」と供述。
男爵は別の筋から脅迫も受けていた。さて、犯人は、殺害方法は。
これを主人公である女スリ、隼お秀が探偵になって解決する、という堅苦しいものではなく、関わった成り行き上、特技である「スリ」の技術で、関係者の懐から色々と抜き去り、その中には「メモ帳」もあるわけで、そこから知り得る情報からストーリーを牽引していく。
現代ならば、ハッカーが携帯から個人の動向を知り、先手を打つ、みたいな感じになるだろう。
このスリ技術で相手の心の内もスル。というのが大きな特色で、まだ二話目だが「金が大好きでスル」みたいには映らない。自慢の指を風呂でも自分で見惚れて、関わったからには仕方がない、正義の落とし前をつけましょう。という具合だ。
本作は映画になったそうだ。モノクロ無声映画で、短い作品だが、展開がスピーディーだったのでナルホド映画向きだろう。
主人公の隼お秀を、女優の栗島すみ子が演じた、とある。グーグル先生に聞いてみたら画像がヒットした。
おぉ、イメージに近い女優さんではないか。
1926年3月「新青年」
お盆休み、家にこもり単行本作業に没頭しておりました。
我が妻との闘争2018〜昼下がりの冤罪〜8割がた完成しました。
ここまで出来たら一ヶ月以内には完成するでしょう。予定通りに行けば、この目次通りの内容で出せそうです。
もくじ
・まえがき
・オープニング
・暗黒ウォーキング
・恐るべきヒロイン
・決死のボーナス争奪戦
・迫り来る惨事
・仕組まれた罠
・昼下がりの冤罪(書き下ろし)
・エピローグ
・あとがき
・解説(佐藤あある)
・広告
・奥付
マックピープルに掲載された、単行本未収録エピソード五本に、今年の事件である書き下ろしを加えた内容です。
前作2017年版を、皆さんが長く支持してくださったおかげで、とても励みになりました。
詳細はまたここで告知させていただきます。どうぞ宜しく。
※
さて、今回は「浮かれている「隼」」を読み終えた。
初久山秀子作品である。女スリである隼を主人公としたシリーズ物とのこと。
そして面白いのは作者は女性のように思えるが、男性作家の手になるものである。本にも著者近影に女性の写真を掲載するという手の込みようであったそうだ。
「新青年」で大いに好評を博したようで、軽い読み物をイメージしていたのだが、当時のラノベのような位置付けであったように思える。
軽快で痛快。婦女誘拐事件の犯人の懐に滑り込んで、麻酔薬を嗅がせるシーンが見どころであろう。
女スリだが、正義感が強く、情も深い。警察とも顔なじみで、尻尾をつかむことができないから逮捕できない、といった風。
婦女誘拐犯を警察に突き出し、ちゃっかりとその前に財布から札は抜いている。
オチで分け前を手紙にして送るのだが、いきなり名前が出てきてちょっと分かりにくい。冒頭で聞き込みをして仲良くなった被害者の女のところに送ったのだろう。
楽しみながら読めそうなシリーズだ。
1925年4月「新青年」
コツコツと自分の単行本作業を続けておりまする。
やりだすと早いのです。
一ヶ月以内に発表できるかも。呉工房ボリューム4のKindle本。
色々と凝ったものになりそうです。
既刊を並べておきましょう。それではまた作業に戻ります!
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さて、今回は「空中殺人団」を読み終えた。
小酒井不木探偵小説選のボーナストラック的扱いで、前回の「不思議の煙」が本作をパクっているのではないか? という指摘の元となった作品である。
これを収録してくれるところに、論創社さんの誠実さを感じる。
さて、読んで驚いた。構造が丸々一緒ではないか。これならば少年読者も「パクったんじゃない?」と思っても仕方がない。
小酒井不木本人は「読んではいなかった」と弁明し、潔く作品を中絶させたから、それは本当なのだろう。
だが、ここまでタネが似るものであろうか?
読んではいなかったのだろう。しかし何かの会合の席で、この作品の話題が出たのではないか? 一本だけ煙突の煙が逆方向になびいていて、飛行機事故が連発するんだ。そのトリックはゴニョゴニョで……。
それが頭の中にあり、いつしか忘れ去る寸前に自分が思いついたような錯覚に陥り使用したとしか思えない。
それくらい骨格は同じだ。
しかしタネは同じでも筋は違ったはず。不木の筆での完結作を読みたかった気持ちは変わらない。
さて、これで長らく楽しんできた「小酒井不木探偵小説選」も読み終えた。この本は予想外に楽しめた。自分用のアイデアが一つ思いついたのも収穫であった。
大人でもオススメできる。戦前の探偵小説好きならば、ムード含めきっと気に入ってもらえる一冊だろう。
これを機に江戸川乱歩の「怪人二十面相」もこの前読み終えた。ちょっと少年探偵小説のマイブームが訪れている。
で、次巻は「久山秀子」である。「地下鉄サム」系のスリの話、というイメージしかない。探偵小説の範疇に入るのかどうかも未知数の作家である。
このシリーズの全巻読破がこの日記の目的の一つでもあるので、読み進めていきましょう。
1925年9月「中学世界」鶴毛寧夫 訳
やっとお盆休みで、今朝はのんびりしております。
外は超暑いです。
嫁さんが「山陽百貨店に連れていけ」と申しておりますので、買い物している間は別行動で駅ビルのジュンク堂へ行こうか、と考えております。
最近思うのは、創作というものは、シラフじゃダメだな、と。「もっと寝かせれば面白いものになる」とか「じっくり時間をかけて」みたいに考えていては、一向に進まない。
自分に催眠術をかけ「己の才能を世に示さねばならぬ」とか「次に書く作品が最高傑作」などと、自分を鼓舞し、高揚させた方が良い。
過信も大いに大事。その勢いで書き切り、反省やフィードバックは書き上げてからのこと。
作品には作者の「凄味」が込められていなければダメなのだ。
※
さて、今回は「不思議の煙」を読み終えた。
この作品、未完の作品である。しかし未完の作品というものは、何故どれもこれも面白く映るのであろう。
雑誌の廃刊や本人の死去など作品の未完には様々な要因があると思うが、この作品は「本人の意志」によっての中絶である。
作者のお詫びの言葉にもある通り、中絶の理由は「ある小説と趣向が似ている」という投書を受けてのことである。
東京湾で海軍の式典が五日間に渡って行われる。その目玉として東京湾の低空飛行が話題になっていた。
その初日、飛行機が原因不明の墜落死亡事故を起こしてしまう。
新聞で事故を知る病床の塚原俊夫くん。
事故は初日だけに止まらず、三日連続で悲惨な事故が起きてしまう。
警察では目立つので、内偵には塚原俊夫くんに白羽の矢が立つ。
東京湾には各国の軍艦や汽船が停泊していた。
視察に訪れた塚原俊夫くん、ある一隻に目が止まる。三本の煙突の二本とは別に一本だけ煙が逆方向に流れる汽船を発見したのだ。
物語はここで終わる。めちゃくちゃ面白そうな導入部ではないか。小酒井不木の筆での完結が読みたかった。
頭の中で「続きはどう書こうか」と考えてみたが、私の貧弱な脳細胞では意外な結末は浮かび上がらず。
惜しい一本である。
1926年10月「子供の科学」
思いの外、先日の嫁さんとの焼肉会計じゃんけん、この一件のダメージがことの外大きく
「あっ、今僕は生きているんだ」
と、脈絡のない言葉が不意に口から出て、夕焼けを見ながら涙ぐむ、という。
心の何処かが壊れてしまったのかもしれない。
六千円もあれば、あの本も買えた、あのCDも買えた、と、涙で夕焼けもグニャグニャになって見え。
「あれは夢だったかな? 店でじゃんけんなんかしないよな? ましてや会計を出す、なんて夫婦間でありえないよな? 財布の中身を確認してみよう。無い」
と、心の復旧作業にまだ時間がかかるようであります。幸い世間は盆休み、それに乗じてこのブログもお盆進行で、傷心の中、読書する気も起きず、心の中を買えなかったものたちが走馬灯のように駆け抜けてい……。
怪奇探偵小説名作選〈4〉佐藤春夫集―夢を築く人々 (ちくま文庫)
Disco K2~Kikkawa Koji Dance Remix Best~(初回限定盤)
家に帰ると子供達はそれぞれの相手とデートに出払って、夕飯は嫁さんと二人だけとなった。
「二人なら外食でも行くか」
嫁さんがそう言うので、反対する理由もない。
「じゃあ焼肉でも行くか」
馴染みの焼肉屋へ直行した。
夏バテ気味であったので、スタミナをつけようと、私もハイペースで注文した。
「アンタ、平凡な日常にドキドキ感足さへんか?」
食事も終わりに近付いた時に、嫁さんがいきなり切り出してきた。
「ドキドキ感ってなんやねん」
「じゃんけんで負けたら、ここの勘定奢るっていうの」
「な、なんで家族の食事を小遣いから出さなあかんねん。ワシにメリット何もないやんけ」
「アンタが勝ったら、ここの代金の金額小遣いあげるわ」
「ここお前が払って、なおかつここの代金の小遣いを今貰えるってか?」
「そうそう」
私は悩んだ。二人で六千円は食べているだろう。ちょうど欲しい本もあった。
「ええやろ、乗った」
「行くでー、一発勝負やー」
嫁さんは店内であるというのに、手をねじって覗き込んでいる。本気のやつだ。
「じゃーんけーん」
呉「パー」
嫁「チョキ」
勝負は一瞬でカタがついた。
嫁「勝ったー! やりぃー。家計浮いたーっ!」
店内でプロレスラーのような咆哮である。
「ま、待って、冗談やろ? ガチで? ガチでワシのこんな少ない小遣いから六千円も払わせるの? 暑い中頑張って働いてるのに? 嘘でしょ?」
「往生際の悪い男やな。私は勝負って言ったはずや。アンタ、ここ一番の勝負弱いな(笑)」
嫁さんは上機嫌である。レジで私は死人のような顔で会計を済ませた。
うつ病になりそうである。読書もできる気分ではない。
こんな一日、早く終わってしまえ。おやすみなさい!