呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

平林初之輔「動物園の一夜」を読む。

 権力を傘にして人を威圧する。男性が女性に対してセクハラを行う、というニュースをよく目にする。

 政治家が女性記者に対して「オッパイ揉ませて」とか平然と言うのだ。

 そういう台詞をシラフで言う、ということは、常態化しているのではなかろうか?

 なんなら何の障害もなく、これまで「先生が言われるのなら」と簡単に揉ませてもらっていたのではなかろうか?

 かような行為を「末代までの恥」とは考えないのであろうか?

 確かに権力に物を言わせるハラスメントはエロい。

「単位を取る方法が無いことも無いことも無い」

 と言いながら迫る大学教授。

「このマッサージで胸の周りの筋肉をほぐさねば、全国大会は無理」

 と熱血指導する体育教師。

「アレをナニすれば保険に入ってやらん事もない」

 と泳いだ目で保険レディに話しかけるサラリーマン。

「レジの金の帳尻を合わせる方法が一つだけある」

 と失敗したパート主婦の肩を揉みながら話すスーパーの雇われ店長等々。

 そのような勝てる喧嘩で異性に迫り、ナニをアレして虚しくはないのであろうか?

 仮に私が出世して権力者になったとしても、そのような愚劣なことなどしない。

 多分しない!

 さて、今回は「動物園の一夜」を読んだ。

 これは犯罪巻き込まれ型冒険譚とでも言おうか。ここにきて結構軽めの、またこれまでに書いていないジャンルである。

 ちょっとストーリーも薄味で、爽快感とパンチに欠ける。

 失業した男が失意のまま無意識に動物園に入り、物陰に隠れて警備員をやり過ごし、閉園後の動物園を宿にしよう。

 というのが発端。

 誰もいない、と思っていた草陰には先客がいて、犯罪に関するものを動物園内に隠し、警備員や裏切り者をやり過ごし、どうやって動物園を脱出するか。

 そういう感じの、パズルで頭をひねることのない、次はどうなるの? という興味で引っ張るストーリー。

 変化を感じたのは冒頭、これまでになく文学的な修飾が施されている。

 当時、世間は不景気であったのか? 動物に投げ与えた客のビスケットを、隠れて拾って食べる描写が印象的だ。

 平林初之輔がこの短編を書いた意味、手当たり次第色々なジャンルを書いてみて「コレ」というものが見つかったら、突き詰めたかったのか、それとも依頼のあるまま、余技で書いたものなのか。

 もう少し読み進めてみないと、現段階ではなんとも言えない。

 1928年(昭和3年)10月「新青年