呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

我が妻との闘争2018〜昼下がりの冤罪編〜発売

 2018年版『我が妻との闘争〜昼下がりの冤罪編〜』ようやく完成いたしました。

我が妻との闘争2018〜昼下がりの冤罪編〜 (呉工房)
 

 ツイッターで「買ったよ」報告を皆さまから頂き、むせび泣いております。ハンカチを噛みながら。気持ち悪いとか言わないでください。

 で、感謝の気持ちといたしまして、期間限定で前作「名古屋夫婦二人旅篇」をババーンと無料で配信中であります。

 あと数日は無料で公開されておりますので、この機会に是非お手元に。そして気に入って頂けたら、ここ大事、新刊の方を何卒よろしくお願いします。

 現時点でアマゾンレビューも五件、頂いており、何よりもこれが嬉しゅうございます。「出してよかったー!」と仕事帰りの車の中で声に出してしまってます。

 アマゾン電子書籍ランキングも好調で、三位をマークしました。パチパチパチ。

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 二位が強敵ですね(笑)

 しばらくはツイートやここも、新作のキャンペーン記事に染まるやもしれません。で、皆さん聞いて。ツイートで新刊の告知をバンバン呟いたら、何人かフォロワーさん消えたんです。別にいいんですが「貴方は私の何だったの?」みたいな感じです。

 あまり一人熱くなって宣伝するな、という事でしょうかね。

 これといった炎上もなく、このプロジェクトは「成功」だったと言えるでしょう。

 また出すぞー!

 読書日記の平常運転はそのうちいずれ。

久山秀子「戯曲 隼登場(一幕二場)」を読む

 コツコツと集中力のない私が、朝から単行本の編集作業を頑張って続けております。

 嫁さんは昼から主婦仲間五人と、姫路の駅前の屋台へ飲みに出かけて行きました。

 集中できるのでどうぞどうぞ行ってらっしゃい、てなとこです。

 後は「あとがき」と「変換作業」を残すだけとなりました。

 昨年に出した「我が妻との闘争2017〜名古屋夫婦二人旅編〜」内で「毎年絵葉書感覚で近況を報告できたら」と自分で言っておいて、年明け、冬が終わり、花見に行けず、狂ったような暑さが続き、気が付けば9月になっていました。

 

「アカンがな。このままじゃ今年終わってまう」

 私は焦りました。そこからエンジンの回転数を上げて作業に取りかかりました。

 前作は本当に皆様に可愛がっていただきました。自分で言うのも何ですが「ロングセラー」です。たまに売れ行きグラフを覗きに行ってびっくりします。

 その前作を前にして、もう一人の私が「前作を超えられるだろうか……」「皆さんの支持を得られるだろうか」とビビり始めます。

「じゃあ出すのやめる? ここまで作っておいて」

 もう一人の私が怒ります。いやいや、出します。これからも「呉エイジ」として頑張って行きたいので、出します。

 発売予定の9月4日。呉(9)エイジ(4)の日、であり、嫁さんとの生活で苦(9)し(4)む、から発売日は9月4日にせい、という相棒、金平からの美味しいアドバイスを受け、最後のひと頑張りです。

 それではまた!

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 さて、今回は「戯曲 隼登場(一幕二場)」を読み終えた。

 戯曲仕立ての探偵劇。いや、探偵劇と言っても良いものかどうか。

 色々と物議を醸した一本である。小説の体裁ではなく、場面を描写した説明の後、脚本のように会話で進行するからだ。

 筋は鉄道大臣が田舎へ視察へ訪れ、熊を献上したい、と大臣に取り入り、それを仕留めた猟師が一人反対し、一悶着起こす。という内容。

 カラクリはどちらもグルで、貧しい田舎で飯代もかさむ熊を、体良く大臣に押し付けよう、という腹。

 この作の発表された後、西田政治が苦言を呈している。

 手を替え品を替え、というか「表現する」ということに対して、久山秀子は相当にオープンな感覚の持ち主であったようだ。

 それが現在に続くミステリの「形式の破壊」や「実験精神」にも繋がる、探偵小説の「別の一面」を背負っていることは間違いない。

 だが、真面目に創作を発表する作家には、と言っても真面目とは何か、形式に沿う作品作りを皆がしなければいけないのか? という考えは一旦横に置き、探偵小説雑誌に、戯曲形式で、最後は主人公が歌舞伎役者のような見栄を切って幕が下りる。こういうお巫山戯は如何なものか?

 という声が上がっても然るべき、とは思うのだ。

 久山秀子のスタンスは「謎」「解決」この式に対して自分の色を塗る(芸事色が強いが)のようだ。

 次回はこの作の批判に対しての反論なので、内容的には続く。

 

1926年12月「探偵趣味」

久山秀子「川柳 殺さぬ人殺し」を読む

 読書スピードが追いつきませんよ。

 皆さんはどうです? お小遣いから小説を月にどのくらい買われていますか?

 私の大好物はタイトルの通り「探偵小説」でして、それも昭和の戦前作品が大好物であります。

 しかし、その辺りの復刻ものはニッチな層なので単価が高い。そして最近は盛林堂さんが「私家版」のいいのを出してくる。部数も少なく再販もないので予約はいつも激戦となります。

 それらを含めると、小遣いの大半は本に消えていくのです。

「もうどうにでもしてっ!」

 と叫びながら、煎餅布団の上で身悶えておるのです。

 本日の一冊は芦辺拓先生の最新巻「帝都探偵大戦」です。

 

帝都探偵大戦 (創元クライム・クラブ)

帝都探偵大戦 (創元クライム・クラブ)

 

 歴代の探偵五十人が勢ぞろい。という探偵小説のアベンジャーズ的娯楽大作です。

 巻末の「名探偵名鑑」も充実で勉強になります。

 法水麟太郎、帆村壮六、獅子内俊次、藤枝真太郎らの共闘など、まるで私のために書かれたような小説ではないですか(極度の妄想癖故御容赦を)。

 ピンチになると兄弟が駆けつけるウルトラシリーズや、仮面ライダーの特番で歴代ライダーが応援に駆けつける、みたいなお祭り感覚があります。

 これはバカ売れしてほしいなぁ。そしてシリーズ化してアニメ化とかになったら最高だなぁ。

 さて、今回は「川柳 殺さぬ人殺し」を読み終えた。

 といってもごく短いもの。雑誌「探偵趣味」の紙面の都合、用紙事情があったのだろうか。

 これはコメントしにくい掌編。なんせ、タイトルが示す通り、川柳「柳多留」という狂句集から人の死なない句をセレクトして一言添える、という体裁のものだからだ。

 なので、川柳を解せねば、まるきり的外れな感想と知識の無さを露呈してしまう結果となる。

 夢野久作の「猟奇歌」はそういう心得がなくとも楽しめる句であったが、これらはちょっと薄味で微妙である。

 テーマに対して強引であるし「うまい!」と声を出すほど上手い句が並んでいるとも思えない。

〜借金の穴へむすめを埋めるなり〜

 唯一これは探偵小説っぽくていいかな、とも思うが、オチを句で持っていくのもこれといったものがなかったのか、自虐とも取れるセレクトになっている。

 

 1926年8月「探偵趣味」

メフィスト賞を読んだ

 メフィスト賞を読んだ。名倉編先生の「異セカイ系」だ。この遅読な私が、長編小説をたったの二日で! 私の読書スピードは、面白さに比例するのだ。

 

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

 

 色々と初体験でしたわ(リスペクトを込めて私も日頃の播州弁で)。まず「転生」モノ、に拒否反応といいますか、読まず嫌いといいますか、まぁSFですやん?

 それもものすごく自分に甘そうな。確かに「小説」は娯楽ですわ。私も日々の激務を終え、小説を読むことで楽しんでる、っちゅうのは確かです。

 で、普通の人が気付いたら異世界に行って英雄になっていた、とか、もう、ちょっとそういうの読むの恥ずい年齢なんですわ。

 で、この作品、第1章を読み終えて「意外と楽しめてる自分」に気付いたんですわ。でも、頭の片隅で囁かれます。

「この作者の文体やからやぞ、他の転生ものならどうかな?」と。

「作者への挑戦状」みたいなミステロイドな試みや、伏線回収もありますが、この作品はミステリの体裁を取った「ザッツ・エンターテインメント明朗ポップ哲学」みたいな趣ですわな。

 まず、現実世界と小説世界を行き来する。という世界。

 そこでドキドキしたり、ときめいたりする。色々と仕掛けも間に差し込んできよります。

 メッセージ性も込められており、もうそれは私のようなすれっからしの読者からすると、眩しすぎて斜に構えてしまうんですな。

 いや、否定はしまへん。いいことやと思いますから。それぞれの世代のそれぞれの「イマジン」は声高らかに唄うてもろうたらええ思います。

 上司に怒られ、仕事でミスして、客に頭下げて、嫁さんに怒られて、歳取りますとな、真っ当な光り輝く提言でも没入できなかったりするもんですわ。

 若さに対しての嫉妬かもしれまへん。

 ええ、分かってます。私が汚れておるんです。そういう提言に無条件で諸手を挙げて賛同する自分が恥ずかしゅうなってしもうとるんです。自分が悪いんです。

 この小説は小説内のキャラクターと愛し合えるか、と聞いておきながら、読むものの現実問題や意識にまで乗り出してきよります。

 よくわからない時代だからこそ、こういうまっすぐなモノが支持されるのでしょう。

「甘さ」を「塩」で表現する「ブルボン ピッカラ」ではなく「上質な砂糖」が下地の作品とでも言いましょうか。

 それでも、なんやろう。この読後感は。小説っちゅうか熱い手紙を読んだ感じ、やろかな。

 

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

 

久山秀子「隼お手伝ひ」を読む

 今日も新刊を買ってしまった。文庫である。あの「メフィスト賞」受賞作だ。

 

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

 

  名倉編先生の「異セカイ系」である。

 予備知識は全くない。が、メフィスト賞は毎回変わったものが読める。直球ではなく変化球でくる。

 その一般受けはしない、がコアなネタ、が楽しみなのだ。

 小説、特にミステリという土壌で行われる文学実験、みたいな雰囲気もこの賞は持っている。

 個人的な趣味嗜好だが「犯人は誰だ、トリックは? アリバイは?」というのも楽しいが「そういうのもやりつつ、裏がこんなことになってんの?」みたいな構造を楽しむ作品が好きだ。

 一発ネタ、大技、という呼称の作品。そういうものに出会える賞なのだ。偉大なるB級作品、みたいな。

 部屋に積ん読本は山積みになっているが、早い順番に回したい一冊。

 さて、今回は「隼お手伝ひ」を読み終えた。

 短いもの。内容に踏み込んでいるので、未読の方はご注意を。

 楽屋での毒殺事件。私立探偵の富田は被害者の父親から依頼を受け捜査を開始。楽屋に入るツテ目当てで隼お秀に声をかける。という導入。

 座談会での批判が作者、久山秀子の念頭にあったかどうかはわからないが、探偵趣味に関しては、これまでの作よりも盛り込まれているように感じる。

 被害者が毒殺されているところから、楽屋内での「湯呑みで茶を飲んでいた」という証言が強調され、ミスリードを誘う。

 久山秀子が自分なりにどう「探偵小説」を構築したかったのか、その手法が垣間見える本編。

 無味乾燥な殺伐とした楽屋での毒殺事件、そこへ作者は「三味線」という味付けを加える。

 毒殺した相手を間違えた犯人は被害者がその日、三味線を弾くとは思っておらず「ターゲットを間違えた」格好になった。

 この作品世界では正義の名の下に犯人を徹底的に糾弾する、というスタンスではなく「なんなら黙っておきましょう」という感じである。

 殺害のトリックとなった三味線を私立探偵富田が借り受け、バチを持って実際に鳴らし始める。指を舐め三味線を握る、そしてまた指を舐める。

 その三味線の胴体に小さな穴が。そこへ毒を仕込んだのだ。

「推理」という説明に終始するシーンを、パズルの答え合せだけに終わらせず、富田が通人として華麗に三味線を弾き鳴らして、なぜ、どうして被害者が毒を口にしたのか、を演出する。

 本格探偵小説に対する自分なりの独自色、久山秀子の回答とも言えるだろう。

 

 1926年7月「探偵趣味」

久山秀子「代表作家選集?」を読む

 備中松山城ツアーからの帰り道、中古ショップで色々買ったのだが、マックピープル時代に挿絵でお世話になった蛭子先生の漫画を買えたのは嬉しかった。

 ニューウェーブ作品でも、独特の「ヘタウマ」さ、で魅了する蛭子作品。

 

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 大半の方は、よく目にする背広を着たサラリーマンのカットを思いつくのではないだろうか。

 そして「下手だなぁ」と思われているかもしれない。

 しかし好き嫌いはあるだろうが、蛭子先生は「天才」である。学生時代、乱歩、正史、変格探偵小説、蛭子漫画、これらがセットになって思春期に吸収された。

 悪いものを食べて昼寝した時に見る悪夢のような、そして不謹慎でちょっとエロい要素。

 教師が生徒にバカにされて遂に切れて、とめどない暴力の果てに、殴り続けた生徒の頭が「ポローン」と人形のように取れてしまう漫画とか。

 現場検証の遺体写真の撮影時、写真に迫力を出したいと思った刑事が、被害者である熟女のスカートをずらして、情熱的に半尻で写真に納める、みたいな「なんじゃそれ」みたいな漫画とか、ちょっと他では味わえない。

 久しぶりに読んで頭を殴られたようなショックを思い出した。また集めようと思う。

 

復活版 地獄に堕ちた教師ども

復活版 地獄に堕ちた教師ども

 
復刻版 私はバカになりたい

復刻版 私はバカになりたい

 
私は何も考えない (1983年)

私は何も考えない (1983年)

 
私の彼は意味がない (1982年)

私の彼は意味がない (1982年)

 

 

 さて、今回は「代表作家選集?」を読み終えた。

 まことに愉快な一篇である。隼がスリとったのは四つの原稿。それを紹介する、という体裁。こういう稚気が真に探偵小説的で良い。前作の座談会での酷評、という前振りが創作の前提としてあるのだが、乱歩、潤一郎、甲賀三郎小酒井不木をネタにして、それぞれのパロディ作を書く、という力の入れよう。

 乱歩のネタは人間椅子を使い、血で書かれた手紙に恐怖しつつも、本家同様、こちらはちょっとスカした感じで落とす話。

 潤一郎は「銭湯での事件」という型に、このシリーズらしいオチをつける。

 小酒井不木のパロは、本物が人徳者なので、全く茶化すことなくパロディに徹している。

 そしてやっぱりというか、美味しいところの総取りが甲賀三郎へのディスりっぷりという(笑)

 この項を書きたいがために、他の三本を書いたのだろう。他の三本はミスリード、隠れ蓑である。

 甲賀三郎の軌跡を見るに、誤解の多い、敵を作りやすい人だったんだなぁ、と。森下雨村を怒らせ、探偵文壇から離れ、知らぬ間に相手を怒らせている人、そんな印象を受ける。

 久山秀子に「我輩の癖として少々脱線したが」とまで書かれている。後輩に文体の乱れを指摘されているのだ。秘められた悪意の埋蔵量はピカイチである。個人的には甲賀三郎の文体は強引さも含め好きですけどね。

 それもこれも甲賀三郎が座談会で「この作者にはこのような作品を書いてもらいたくはない〜略〜地下鉄サムには毎回新しい試みがあったが」と、このシリーズを全否定したせいである。

 

備中松山城5

 城巡りが終われば、そこからは嫁さんが怒り狂わない時間を見据え、限界まで中古ショップ巡りをするのが常である。

 ラーメンで腹ごしらえを済ませ、エネルギーをチャージした二人は、iPhoneで検索しながら次のルートを決める。

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 ブックオフと違い、ハードオフのいいところはレコードやレーザーディスクが格安で置いてある点だろう。

 今の時代レーザーディスクなんて! という声もあるかもしれないが、大丈夫、ハードオフにはレーザーディスク本体も売っている(笑)

 画質は液晶ではそう思わないが、ブラウン管につないで再生すれば発色も良く、ノイズもブロックノイズの出る盤を除けばクリアな映像が楽しめる。

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 倉敷はまだ、昔ながらの古書店が残っていて、いい街である。このお店はおばあさんが経営していた。

 こういう店に入ると、必ず角川文庫の結城昌治を探すのだが、これが難関でなかなか見つからない。コンプまであと数歩なのだが、道は未だ険しい。ここも一冊も置いてはいなかった。

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 万歩書店倉敷店へ。何度来ても好きな古書店である。ミステリのレア本もコーナーにしてある。ミステリ好きは、ここと本店を一度覗いておくべきだ。

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 そしてヤフオクでコツコツ集めていた未所持の雑誌「幻影城」がアッサリと見つかるから凄い。リーチ。あと別冊を除きvol.43号でコンプリートである。

ハードオフを経て

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 万歩書店の本店へ移動する。

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 ここは倉敷店よりもミステリ本が強い。が、レア本は結構お高く、文庫を買うだけにとどまる。

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 地下鉄サムは現在、論創ミステリ叢書の「久山秀子」を読んでいるので、勉強の意味で買ってみた。

 クイーンは家に帰って本棚を見て、ダブっていることを知り泣き崩れるのだが(耄碌も甚だしい)

 そしてお宝倉庫にも寄る。ここはレトロゲームが充実している。

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 気がつけば夜もすっかり更けていた。もう投げた。きっと嫁さんは怒り狂う。

 最後のブックオフを覗いてアクセル全開。

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 ここから経費削減で下道を通り、岡山から一路姫路へ。

 この移動中、金平と互いの次に書きたい作品を話し合い、とても有意義な時間が過ごせた。何物にも得難い時間。

「次の表紙はな、嫁さんから電話がかかって来て仕事中に半泣きになるねん。それをしたから見た感じで、バックの雲が怒る嫁さんに見える、そんな感じがええな」

「よっしゃ」

 後日金平から完璧なラフが届いた。私の頭の中にある絵がそのままトレースされたかのようだ。

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 直す箇所は全くない。これで進めてもらう。今年の「我が妻との闘争2018」の作業も大詰めである。

金平「発売日は9月4日でどうや」

呉「ええっ? 苦(9)し(4)むで縁起悪いやんけ!」

金平「なんでや、美味しいやないか。呉(9)エイ(4)ジの日やし、嫁さんとの生活で苦(9)し(4)む。ぴったりの発売日やないか」

呉「ほんまやな。頑張るわ」

 あぁ、学生の頃から二人で机を囲んでは物作りに明け暮れていた。集まればそこが二人の「トキワ荘」素晴らしい表紙が仕上がった。

 発売日に向けて頑張ります。皆さんどうぞご贔屓に。

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〜完〜

備中松山城4

 筋肉痛の足を引きずりながら山道を下る。帰りは行きの半分の時間で済んだ。

 AppleWatchを見れば昼。そろそろ倉敷方面に移動して、お約束の中古ショップ巡りをせねば。

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呉「昼休み、食べたいものを同時に言うてみよか」

金平「そんな茶番やらんでも、分かり切ってるけどな」

呉「まぁ、ええがな、一応やっとこうや」

金平「じゃあ、やるか?」

呉「せーの」

呉・金平「ラーメン!

 多数決で昼はラーメンに決まった。高梁町に別れを告げ、下道を走り、一路倉敷方面へ。

 城を出て一発目、古本市場ブックオフへ。今回も角川文庫の結城昌治、欠けた「ちくま文庫」の怪奇探偵小説傑作選、シャーロックホームズのライブァル達、ハヤカワの青背クイーンを探しながらのハシゴである。

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 アイドルCD、古本、レトロゲームを分担してチェックしながら店内を物色する。

 途中、ナビが古書店を示したのだが、残念ながら閉店している模様である。

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 お宝が眠っていたかもしれない。もう一年くるのが早ければ、のパターンである。

 倉敷の古い街並みは風情があって、古書店めぐりがメインなのだが、ちょっとした旅行気分。

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 その古い街並みの中にある「蟲文庫」さんへお邪魔する。

 味わいのある年季の入った本棚。ここで未所持のちくま文庫を見つける。

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 次のブックオフへ移動した時に、二人の腹が鳴った。

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金平「そろそろ飯にするか」

呉「二時かよ! このままいくと昼飯忘れるパターンになるな。入るか」

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 そして二人でお揃いのものを注文。

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呉・金平「こってりラーメン、ンマーイ!

 

〜続く〜

備中松山城3

 山の中腹から歩いて30分くらいかかっただろうか。なんせインドアな野郎二人、足はプルプルと小刻みに震えながら、天守手前の入場券売り場で支払いを済ませる。

 振り返れば街が見下ろせた。疲れるわけだ。結構高い。

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 大人300円を支払い、門をくぐると、左手に冷たいお茶の無料セルフサービス。

 我先に、と互いを押しのけ、無料なのをいいことに何杯もグビグビとお茶を飲む。最高にうまい。

 天守の見渡せる本丸は、以前は天守と二重櫓だけであった。その後、考証を元に二基の櫓を復元。正面から見る景観は更に重厚さを増した。

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 と、ここで私の小学校時代からの愛読書、探訪日本の城を引っ張り出す。

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 この本を母親に買ってもらったのがきっかけで城が好きになったのだ。

 その大昔の図鑑には、天守のみの写真が掲載されている。今と比べると寂しい。

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 金平も山頂の天守に興味を示したようだ。手前の復元櫓内では、この城の歴史を紹介するビデオが流れていた。

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 さて、いよいよ入るぞ。

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 相棒は息も絶え絶えだ。もう少し感動せぬか。

 中は想像よりもかなり広かった。

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 二階から望む街並みは絶景である。

 そして外に出て裏手に残る二層櫓を見に行く。

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「素晴らしいなぁ、せっかく日本に生きとるんや。これからも名所を巡ろうぜ」

 友は肩で息をしている。疲れ果てているようだ。

〜続く〜

備中松山城2

 前日から「朝の八時半に行くど」と金平にメールをし、相棒の金平は職業上夜型人間なので、朝が弱いのだ。時間カッキリにチャイムを押す。

「かーねひらくーん」

 これは中学校からイントネーション等全く変わらぬ不変の呼び出しである。

 不安そうに金平が出てくる。おばちゃんも見送りに玄関まで出てくれた。

「今日はどこドライブ行くん?」

「倉敷の上の方まで行ってみます」

「気を付けていきや」

 不安げな表情のまま、金平は助手席に乗る。

「もしかして、お城か?」

「お城や」

「どんな城や?」

「山城で現存木造天守や。重要文化財やで」

「知らんがな」

 相棒は重要文化財が拝める、というのに非常にナーバスであった。

「山城ということは徒歩で登るんやな?」

「当たり前やがな、行くど」

 友は半泣きのまま助手席に乗る。

 そしてそのまま有無を言わせず、山陽自動車道をノンストップでブッ飛ばし(笑)拉致&軟禁である。

 城下の高梁という街、川と山に挟まれて、まだ昭和が色濃く残る風情ある商店街が残っていた。

 私は運転手だったので、その画像が無いのが惜しいところ。

 備中松山城は山の8割くらいまで車で登れる。そこから山道を歩いて山頂の天守を目指すのだ。

 車一台通れる山道を車で登り(無線で山の上と下で連絡を取り、交互に行き来させている)10台くらい停められる駐車場を発見。平日なのに結構埋まっていた。

 年配のご夫婦が杖を持ってトライしている姿を多く見かけた。

 野郎二人で山城(笑)

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 自然の岩肌に人工の石垣をミックスさせたハーモニー。土塀も素晴らしい。

 友はうな垂れたまま付いてくる。

 山道は結構キツイ。

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 それにしても、こんな山頂にここまで立派な石垣群。驚嘆する。石一個ですらこんな山頂まで下から持って上がれる気がしない。

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「ホレ、見てみぃ金平。見事な石垣と土塀やろ。目に焼き付けとけ」

「喉乾いたな」

 友は疲れすぎて、声が一オクターブ上がっていた。

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「まだ階段あるんかい」

「頑張れ金平、昔の人はここをクソ重い鎧着て登ってたんや。それに比べれば、ワシらTシャツにジーパンやん」

「それ喩えられても今江戸時代ちゃうし」

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「ほれ、見えてきたぞ、もう一息や、頑張れ」

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「素晴らしい、なんて美しい山城なんや。どうや金平」

「お前なぁ、今わしの足、小鹿のようにプルプル震えてもうとるがな!」

 震える足でようやく建築群へ。

〜続く〜