呉エイジ 秘密の探偵小説読書日記

日記と探偵小説の読書録

ブックオフにて

 ジムでジョギングを始めたのだが、そのBGMに吉川晃司が激ハマリしているのだ。

 それも初期の楽曲。「モニカ」とか「ユーガッタチャンス」とか。ジョギングのリズムにピッタリ合って気持ちが良いのだ。

 iPhoneでワイヤレスヘッドフォン経由、アマゾンプライムミュージックの特典で吉川晃司のベストが聴けるのだが

「配信もいいけどCDのいい音で聴きたいな」

 と、本以外の用事でブックオフに寄ってみた。一枚くらいあれば買ってもいいかな、と棚を見たところ、初期アルバムのリマスター版が出ているではないか! きっとファンが一気に手放したんだろう。

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 初期アルバムほとんどあるやんっ!

 お会計、七千円強(笑)

 ハハハハハ。おぬし、もしや月末のことを何も考えておらぬであろう。知らぬぞ、拙者はどうなっても知らぬぞ。あっしには関わりのねぇことでござんす(※木枯らし紋次郎は傑作なのでみんな読もう!)

  いやぁ、参った参った。まぁこれも出会いだから仕方がない。

 当時版ではなく再販のリマスター音源だし、定価から考えたら幾分安いので、出会ったのは運命だと諦めよう。

パラシュートが落ちた夏

パラシュートが落ちた夏

 

  ファーストアルバムは佐野元春の「アイムインブルー」をカバーしている。これがなかなか味のあるカバーで、元の佐野元春のバージョンもいつ聴いても色褪せないエバーグリーンな楽曲なのだが、吉川も佐野へのリスペクトが感じられる好カバーだ。

LA VIE EN ROSE

LA VIE EN ROSE

 

  このアルバムは「シーズゴーン」という楽曲がお気に入りで未だに聴いている。大昔のレンタルでリッピングしたので音量レベルも低かったが、このリマスターでまたヘビロテである。

INNOCENT SKY

INNOCENT SKY

 

 このアルバムは冒頭のナンバー「ハローダークネス」が最高。ニューヨーク時代の佐野元春のビブラート唱法を取り入れている。

MODERN TIME

MODERN TIME

 

 このアルバムはヒット曲てんこ盛り。白眉はベース王後藤次利アレンジの(この人のベースのアプローチ大好き)「サイケデリックHIP」だ。チョッパーベースがうなりまくる。ドラムの変速リズムも快感。

BEST BEST BEST 1984-1988

BEST BEST BEST 1984-1988

 

 そしてアマゾンミュージックで聴けるベストアルバム。この選曲が手堅い。音も良い。佐野元春作曲の「すべてはこの夜に」が最高。

 というわけで、ヘッドフォンで今からじっくりと音楽鑑賞と洒落込みます。

ジムの駐車場で

 昨日は案の定、嫁さんの晩酌に付き合わされ、コップ一杯のビールでボロボロになり読書もブログも吹っ飛んだ1日となった。

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 なので、本日も読書の時間は取れず、日記のみの更新である。

 昨日、思い切って買ってしまったのだ。河出レトロ図書館シリーズの二冊を。

奇談クラブ

奇談クラブ

 
沙漠の古都 (レトロ図書館)

沙漠の古都 (レトロ図書館)

 

 結構なお値段である。半月ほどウンウン悩んでいたのだ。

 新刊、初版、帯付きを買うべきだ。心の中でもう一人の私が叫ぶ。

「でも、小遣い激ヤバやん! 月末どないすんねん。論創ミステリの新刊のお金も置いておかなあかんやんけ」

「飛び込め、取り敢えず飛び込め。苦しむのは月末の自分や。今が幸せならええやないか」

「まるでワシの人生の縮図を見とるようやのう。そんな破滅的な生き方でどないすんねん」

「なら新刊書店の棚から次行った時に消えてたら、お前諦めきれるんか?」

ぐぬぬ

「缶コーヒー飲むな。間食すな。公園で水飲め」

「うわーん」

 このような葛藤の末、購入したのである。

 それから本日、ジムの駐車場で「まゆゆ似」の彼女を見た。辞めたと思っていたのに、ただ来る時間がズレていたのだ。

 しかし様子がおかしい。前に見た時に彼女の白い軽四は覚えていたので、自然と足が止まった。

 室内灯を点けてスマホで深刻に文字を打っている。

 泣きそうな顔だ。

 叩くような感じでスマホに文字を打ち込み、両手で握りしめてじっと画面を見ている。

 私は他の車の隙間から10分ほど様子を見ていた。

「これは喧嘩だ。恋が終わりそうな顔をしている」

 彼女は返事をずっと待っている。外から覗かれていることなど気付きもしないで。

 そして返事が来ると画面に顔を近付け、すぐさま返事を打つ。泣きそうな顔だ。

 彼女が既婚なら亭主と、独身なら彼氏と、きっと今深刻な状況なのだろう。

 ここのところ私生活が乱れていたのか。

 ジムに入る素振りは全くない。ずっとこんな感じだったのか? 会社から帰り、ジムには来るが駐車場で喧嘩。

「君みたいな可愛い人でも恋に苦戦するんだね」

 と言ってみたい。

 助手席にスマホを投げると彼女はエンジンをかけて、急発進して飛び出して行った。

 ジムで見ないわけだ。

 喧嘩の続きに会いに行ったのか。相手に別の女が出来て追いかけに行ったのか。

「恋の終わりに割り込むと、無理目の女性とでもお近づきになれる」

 と、孫子が言ったような、言わなかったような。

小酒井不木「自殺か他殺か」を読む

 本が届いた。

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 国書刊行会の「探偵クラブ」シリーズだ。このシリーズはこの当時、戦前の探偵作家が新刊書店で全く買えなかった時代の飢えを癒す、素晴らしいシリーズであった。

 甲賀三郎大下宇陀児、大阪圭吉、など、私のハートを鷲掴みのラインナップであった。井上良夫など「よくぞ纏めてくれました」と拍手喝采であった。

 そうして私の悪い癖、興味のない作家は後回しで、結局歯抜けの本棚が完成する。

 今になると抜けが気になって仕方がない。

 なので、あと数冊、収集を再開し、コンプすることにした。

 第一弾がこの「城昌幸」「昌幸」で「真田」と返せばその人は歴史好き「城」と返せばその人は探偵小説好き「湯原」と返せば、テレビ好きなただの昭和のオッさん、という綺麗な三段落ちが決まる(三つめはツイッターのリプライからの拝借ですが)(笑)

 一本目「脱走人に絡る話」を読んでみた。城昌幸は「短めな話を書く幻想文学寄りの人」というイメージであったが、なかなか良い。

 秘密結社から脱走する者は消される運命にある。というテーマの三本からなる小編集。渇いた死とロマンが融合する三本目が良かった。

 さて、今回は「自殺か他殺か」を読み終えた。

 冒頭からお馴染みになった「何か事件が起こらないかなぁ」という「欲しがり屋さん」のやり取りから、Pの叔父さんが事件を相談しにくる、という掴み。

 解説ではこの短編、他愛のないトリックで密室風の犯行を扱っている。という素っ気ない扱いなのだが、ええーっ?! 私は結構感心して読んだのだが、私のミステリ脳が弱い、ということなのだろうか?

 まず自殺か他殺か分からない事件の依頼、高齢の金貸し老人が、居間の欄干で自殺。証拠は何もない。机の上には般若心経が置かれ、覚悟の自殺、とも取れた。物語としては「自殺」では面白くない。「他殺」へどうやって持っていくかが作者の腕の見せ所。

 被害者の机の引き出しには遺言状の写しと、ビタミンA。

 これで少年探偵、塚原俊夫くんはピーンとくる。

 アマゾンでググっても、なかなか「ビタミンA」は出て来ない。私もサプリ好きで「カルシウム」や「ビタミンC」をDHCで買っているのだが、姫路駅のDHCショップは綺麗なお姉さんがいるので、それも目当てに買っているのだが(脱線)

「ビタミンA? はて、あったかな?」

 サプリ好きな私でもちょっと思い浮かばなかった。店頭では売っていない通販用のビタミンである。サプリの中でも大正時代ではメジャーであったかもしれないが、現代ではマイナーな部類だ。

天然ビタミンA 30日分

天然ビタミンA 30日分

 
DHC ビタミンBミックス 60日分 120粒

DHC ビタミンBミックス 60日分 120粒

 
DHC ビタミンC(ハードカプセル) 60日分 120粒

DHC ビタミンC(ハードカプセル) 60日分 120粒

 

 塚原俊夫くんはビタミンAの効能に着目し、眼科の領収書が机の引き出しに入っていることを合わせ被害者が「とりめ」であったことに気付く。

「とりめなのに夜、見えない般若心経を読むはずがない、これは偽装だ!」

 と見抜くのである。ここはなかなか良い。なんで解説はあのように素っ気ないのか。

 そうして鍵のかかった部屋での偽装自殺。同居の老婆は犯人とは思えない。ここからの犯行の推測、そしてコロンボ級の引っ掛け尋問で、一年間叔父に会っていない、という犯人の矛盾を突く痛快な解決。

 ここまででベストかと思うのだが、いや「好みの形」ということをメモしておこう。

 

 1927年(昭和2年)11月「少年倶楽部

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

 

小酒井不木「現場の写真」を読む

 宣言しよう。年内にたるんだ身体を引き締めることを。

 私の決意は固かった。プロテインと筋トレで二の腕と胸板は結構立派になった。だが、ウエストがそのまんまである。胸板が腹の脂肪を吸い上げて、代謝しながら分解してくれるものとばかり思っていた。

 なので筋トレは継続する。そしてこれまでは筋トレを終えたらジムでシャワーを浴びて帰っていたのを、半月前から3キロランニングマシンで走ることにした。

 デブは取り敢えず走れ! ということだ。走るのは大嫌いなのだが、結局これが一番効くのだろう。良薬口に苦し、ではないが、嫌いなことだ、私の贅肉が脳内に侵入し「ジョギングだけはやめちくりー」と私の意識をコントロールしているに違いない。

 いや、走る。ジョギングする。そして贅肉を殺す。滅亡の危機に怯えるがよい。

 そんな意識で家に帰ってからも二階で腹筋ローラー。

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  快調にトレーニングしていたら獣のような足音とともに嫁さんが上がってきた。

床ゴロゴロとやかましいわ!

「別にステレオガンガン鳴らしてるわけじゃないから、そこまでうるさく言うなや」

「床の音に奇声もあげてなんやねん!」

「声響いてたか?」

「一体何回めでそんな苦しそうな声出るねん」

「十回め」

フッ(鼻で笑う)

 嫁さんはそのまま降りて行きました。なんたる侮辱! これは何ハラと言うのでしょうか?

 それにしてもまゆゆ似の女性が全然ジムに来ない。本当に辞めてしまったのか? お盆前で仕事が忙しいのか? それを祈るばかりだ。

 話しかけられずにごめんね。もうちょっと身体を絞ったら挨拶くらいはするね。この贅肉が取れたらね。

 俺に勇気がなくて本当にごめんね。

 陶酔した気分を落ち着け、アップ前に最初から読み返す。まゆゆ似の子に対して、これ、完全にストーカーやんけ! 怖い怖い!

 さて、今回は「現場の写真」を読み終えた。

 前回の「玉振時計の秘密」の翌月の作である。精力的な小酒井先生。

 短めでシンプルな本格推理モノである。

 冒頭、事件もなく暇を持て余している塚原俊夫探偵。「何か事件でも起きないかな」と、相当な欲しがり屋さんである。

 お馴染みのPの叔父さんが未解決事件の相談にやってくる。この辺はご愛嬌。少年少女読者は「子供なのにすごーい」と思うわけだ。

 株屋が自室で刺殺された。容疑者に同居する手代が検挙されている。が、手代は犯行を否認。その時間は主人の言いつけで、遠方まで手紙を運んでいる。相手方は生憎留守ではあったが。

 塚原俊夫くんは現場写真を見る。ここで色々なことに気付くのだ。

 そして「犯人は手代ではない」と言い切る。読者として他に登場人物がいないのに、どうやって話を落とし込むのだ? とヒヤヒヤしながら読んでいると

・被害者は太っている

・布団の上で死んでいた

・風呂上がりな様子

・後ろから抱きかかえられ心臓を刺殺。よって犯人は左利き

・現場に血のついた足跡はない。返り血を浴びていない。よって絶対に後ろから襲いかかった

 そうして塚原俊夫くんは単身聞き込みに出かける。残された大人はポカーンとしている。

 ここから犯人を書くので未読の方はご注意を。

 相当ツッコミどころはあるとは思うが、被害者は風呂上がり、布団横が殺害現場、この写真を見て、塚原俊夫くんは「被害者は按摩を頼んだのではないか?」と推論する。

 そして夜の現場付近を張り込み、杖を左手に持つ按摩に飛びかかる。

 そして警察の尋問で全て自白。

 もし犯人がレインコートなどを着て前から刺せば右利きの犯行であるし、玄関は空いていたのだから、それは按摩のため、ではなく押し込み強盗が入った可能性も否定はできない。

 それでも玄関に破壊された跡がないことから、やはり子供に向けては「按摩さんのために鍵をかけておかず招き入れたためだよ」ということになるか。

 短い枚数、そして内容に直結するタイトル。破綻のない短編である。

 

1927年(昭和2年)8月「少年倶楽部

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

 

小酒井不木「玉振時計の秘密」を読む

 ジムへ行ってもまゆゆ似の彼女がいない。

 辞めてしまったのであろうか。傷心。

 束の間の淡い恋であった。1ミリも進んではいなかったが。

 誰も声をかけてくれないから、辞めよう。退会理由はそういう動機だったのだろうか?

 入って二ヶ月くらいで辞めてしまうのだから。出会いを求めていたのだろうか。

 結婚相手を探していたのかも知れない。

 もう会えない。どこに住んでいるのかも分からない。記憶の中だけに残る可愛い女性。

 メーテル状態である!

 さて、今回は「玉振り時計の秘密」を読み終えた。

 これは倒叙形式の作品である。刑事コロンボ等でお馴染みの、犯行を先に描き、後から警察なり探偵が、完全犯罪に見えた犯行を、犯人の落ち度を見つけて暴く。というスタイルのものだ。

 塚原敏夫くんは、犯人を目の前にして、堂々と尋問します。ひっかけもかましながら、被害者の服の矛盾点を突いていきます。

 決め手は時計の針をピストルで撃ち、針を動かし犯行時間を誤魔化す、というもの。

 最後の記述がチョット表現が古すぎてイメージできないのだが、要するに、ボンボンと時計が数の通りに鳴るかどうか確かめる、ということだろうか。

 子供、というだけで、やっていることは大人の探偵と同じである。今作で益々逞しくなっている。

 

1927年(昭和2年)7月「少年倶楽部

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

 

小酒井不木「塵埃は語る」を読む

 本日は相棒の金平とドライブの日なのであった。

 神戸あたりへ古本メインでブラリと出かけてみた。そうして車のダッシュボードには、いつも小型ハンディカムがセットされる。

 会うときは大体録画するのだ。それはお互い、今作っているもの、作る予定があるものを話し合い、話す過程において相手の盛り上がりを加味しつつ、自分でも形を整えていく、という作業に繋がるからだ。

 そして録画した映像は半年か一年後に「全プレ」と称して相手に送りつける。

 録画は互いに「実のある話をしよう」という気持ちにさせてくれるのだ。

 元町の「うみねこ堂」さんに寄ってみる。

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 ここはミステリ本が充実している。店主さんも本業以外に色々とミステリ関連の活動をされていて、活気のある古本屋さんだ。私の甲賀や大下、幻影城関連の話にもニコニコと応対してくださった。

 シャーロックホームズのライヴァルたちの二冊をまず購入。 

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 そうしてレジ脇に陳列してあった「文藝春秋」値札の掲載作には「甲賀三郎大下宇陀児」の名が! まるで私に「買ってくれ」と言わんばかりに光り輝いていた。

 迷わず購入。

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 そうして元町でこってりラーメンを食す。ンマーイ!

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 ドライブしながら相棒金平の最新作「モノがたり」なんで最初に無料で配布したのか! とキツく叱責。

「まぁええやん(笑)」

 とは本人の弁。

 私も書きたいと思っている話を熱く語ってしまった。

 サラリーマンの同僚相手では、このような話はできない。

 私にとって、本当に至福の時間である。

 さて、今回は「塵埃は語る」を読み終えた。

 この回ではなんと、塚原俊夫くんが敵方に誘拐されてしまう。事務所へ依頼に来たのは誘拐事件の依頼であった。豊くんが誘拐されたのだ。

 三万円用意すれば無事に返す、と言っている。

 その捜査に乗り出した塚原俊夫くんを、犯人グループは逆に送迎用の車だと偽装して、そのまま拉致してしまうのだ。目隠しをされ、どこに行くのかわからないようにして、だ。

 ここで子供ながらになかなかやる、と思わせるのが、誘拐先の床の埃を、塚原俊夫くんは採取して、ポケットに忍ばせていたことだ。

 そして監禁されていたのが沿線沿い、寺の屋根が窓から見えていたこと。しかしそれだけでは場所が特定できない。

 解放された後、塚原俊夫くんは顕微鏡で埃を分析する。すると近所の工場から流れ出たものが混じっていた。

「小麦等が確認できるから製粉工場、あとセメントの原料も見える。セメント工場もだ」

 その二つの工場があり、沿線沿いで寺の近く。

 それでバッチリ敵のアジトは一網打尽。グーグル先生も真っ青の特定術だ。

「誘拐されたら僕も床の埃を取っておこう」

 これを読んだ少年少女は、きっとそう思ったことであろう。

 

 1926年(大正15年)12月「子供の科学

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

 

小酒井不木「紫外線」を読む

 本棚に目をやると、気にならなかったものが気になりだしてくる。

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 国書刊行会の「探偵倶楽部」シリーズだ。これは私の大好きな戦前の探偵作家が読める、この当時の渇きを癒してくれた貴重なシリーズであった。

 しかし、これもまた私の悪い癖。当時の気になる作家だけしか集めていない。

 過去の自分にスパンキングである。

 気持ち悪いだろうが。欠けた本棚が。

 煙草を我慢して(当時の私はヘビースモーカーであった)何故頑張って買い揃えなんだか! 未熟者め。

 何冊か欠けているぞ。城昌幸とかもあったな。

 当然、新刊書店からは消えている。古本屋で目にしたら揃えるべし!

 さて、今回は「紫外線」を読み終えた。

 このシリーズは少年探偵ものでありながら、科学技術の啓蒙書でもあるのだ。

 今回は「石英水銀灯」のうんちくと紹介がある。大人でも知らない水銀灯、これは紫外線を発するものらしい。

 そしてアニリン色素は紫外線に当たると蛍光を発するそうだ。

 この科学知識を「暗号」に組み込んで、塚原俊夫くんは買ってもらった石英水銀灯を使って、謎のメモを解読するのだ。

 せっかく暗号は書かれているが、読者は解くことができないのである(笑)

 そして犯人特定の推論は、水銀灯を持つのは医者だろう、から出発し、自分の水銀灯を駆使しての大活躍。

 大人を差し置いての解決編は、もう読みながら微笑ましい領域になってきた。

 

 1926年(大正15年)7月「子供の科学

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

 

漫画のことなど

 今は姫路住まいだが、子供の頃は親父の仕事の都合で名古屋に住んでいた。

 5階建のマンションで家族四人暮らし。小学2年まで名古屋にいた。そのマンションのお隣さんが、お金持ちの家で、しょっちゅう遊びにお邪魔していた。

 お姉さんは綺麗で音楽好き、LPレコードをたくさん持っていた。お兄さんは漫画好きで、部屋の本棚には大量の漫画の単行本が並べられていた。

 小学校2年で、その時6年だったお兄さんと、部屋で漫画を読みふけった。

 まずはブラックジャック。これは子供心にも「面白い」と思った。凄腕の外科医。手術シーンはグロく、怖くて眠れなくなることもあった。

 手術になるとナイロンの風船を膨らませて、その中に入って施術するのが印象的だった。

 どれも面白かったが、記憶に焼き付いているのが、ブラックジャックが法外な治療費を息子にふっかける。母親の手術だったと思う。物語の終盤だ。一瞬ひるんだあと、息子は「どんなことをしてでも払いますとも」と言い切る。

 ブラックジャックは「その言葉が聞きたかった」と言いながら手術を始める。

 その次に「マカロニほうれん荘」を読んだ。これは破壊的なギャグが最高だった。ファンキーな教師「クマ」いつも「ノォーッ」と叫ぶ。

 土方歳三にきんどーさんと沖田くん。後年知ることになるが、新撰組ではないか。

 そして女子が可愛かった。「いやん、いやですわん」とか言いながら男に擦り寄る。ドキドキしたものだった。

 そして「ガキデカ」を読む。これも貪るように読んだ。「マカロニ」とは違う質のギャグで、飼い犬「栃の嵐」が裕福になったり、こまわりが動物などにメタモルフォーゼしたり、漫画表現が多彩。そしてギャグも不条理系なものが多かった。

 この三本が幼少期に叩き込まれた漫画たちである。

 そこから先はジャンプ読者となり、車田正美リングにかけろ江口寿史「エイジ」ジャンプとは別枠だが、藤子不二雄Aの「まんが道」には大きな影響を受けた。

 青年期には大友克洋を知り「童夢」「アキラ」そこからニューウェーブ作品を読み出し藤原カムイ「チョコレートパニック」士郎正宗アップルシード御茶漬海苔スプラッター漫画、蛭子先生の独特な作品群に夢中になった。

 私を形作る「漫画」はこのような感じだ。そこから先は江戸川乱歩横溝正史を始めとする国内ミステリ小説作品へと移行することになる。

 

マカロニほうれん荘 (1) (秋田文庫)

マカロニほうれん荘 (1) (秋田文庫)

 

  

 

小酒井不木「白痴の知恵」を読む

 ツイッターでも呟いたが、事務所の皆が疲れているのである。疲れていると、くだらないことで延々と笑ってしまう。深夜に大爆笑したネタを思いついても、翌朝冷静になって考えれば「そうでもなかった」効果のような。

 時代劇の話から水戸黄門の話題になり、そのうちに誰かがモノマネで

この黄門が目に入らぬかっ!

 いやいや、そもそもそんなセリフ無いし、それだと肛門みたいやんっ!

 水戸黄門が助さん角さんに抱きかかえられ、尻をまくって悪代官の目の前に肛門を突き出す。木の上で微笑む弥七。どんな時代劇だ!

 事務所全員が窒息級の爆笑。皆疲れているのだ。

 ようやく誰かが「この紋所でしょ」と訂正する。肩で息をしながら。

 そこまで疲れ果てて、家に帰ってブログを書こう、と思ったら、食後完全に寝落ちしていた!

 歩行機に乗ったまま、口の周りがスパゲティでぐちゃぐちゃの真っ赤っかになったまま寝る赤ん坊の如く、食べた直後に猛烈な睡魔が襲ってきた。

 尿意で目が覚めて、ただいま深夜の二時。慌てて愛機を起動した次第。

 天気予報では変なカーブを描いた軌道で台風が接近中である。今年は猛暑でその上豪雨などの災害のニュースも多く目にした。

 気をつけて参りましょう。

 さて、今回は「白痴の知恵」を読み終えた。

 この作品はタイトルからしてアレ、だろう(笑)今日の人権意識に照らして〜から始まることでお馴染みのアレだ。

 普通にサラリ、と書いているから驚く。ましてや小酒井不木は科学者である。その小酒井不木でも白痴に対する態度が「三歳児並みの知能」などと記述しているのだから、当時のそういう人々に対しての世間の温度というものが窺い知れよう。

 白痴、土人など「そういうもの、我々より低いもの」として世間一般では扱われていたのだろう。

 今回もすこぶる面白い話、あらすじなど。白痴の息子と二人で暮らしていた母親が深夜、何者かに絞殺された。

 証拠は現場に残された手ぬぐいのみ。容疑者もいるにはいるが、確たる証拠がない。

 その事件に我らが塚原俊夫くんが乗り出す。

 今回も明朗・痛快に大人に指示し、容疑者を一度に集め、役者を雇わせ、殺人現場で殺害シーンを演じさせる見せ所をわかった作り。

 刑事コロンボを思わせる犯人の良心を突いた引っ掛け自白をかますのだが、小酒井先生、タイトルと違って、この指摘方法では「白痴の本能」になりますやん!

 

 1926年(大正15年)1月「子供の科学

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

 

小酒井不木「頭蓋骨の秘密」を読む

 ちょっと自分用の作品を思いついてしまった。意気込みは「四大奇書に連なるものを」くらい高まってはいるが、出来上がったら「連なるか!」とセルフツッコミになるかもしれない。

 前の日記に書いた「明朗・活発・不謹慎」をテーマにした少年探偵モノ、である。

 長らく読書モードであったが、執筆モードになりつつある。

 この前書いた「」がいいリハビリになった。あれも原作を読み終えてから「自分ならこう書くのに」と延々と頭の中で繰り返し、そうして数日で一気に書き上げた。

 思惑通りに仕上がれば「驚天動地の結末」みたいな帯文句になりそう。

 イカイカン、こういうのは自分を鼓舞するにはいいが、書き上げてから報告するのが格好いいのだ。

 Kindleで年内に出せればな、と思っております。

 さて、今回は「頭蓋骨の秘密」を読み終えた。

 実は筆者、江戸川乱歩の初期短編を偏愛しているのにもかかわらず「少年探偵団シリーズ」は未読なのであった。

 今回この塚原俊夫くんの少年探偵シリーズを読んで、正直カルチャーショックを受けている。児童物の文体がわかりやすく、面白いのだ。

 これは合間を縫って「少年探偵団」も読まねば、と思った次第。

 そしてこの短編は「変型顔のない遺体」ともいうべき作品で、当時の最先端技術であったろう「復顔術」骨から肉付けして再現する技術、を子供達に紹介する、という啓蒙的な一面も持つ。

 掘り出された白骨死体は失踪した二人の子供のどちらなのか。横溝正史が好みそうなトリックだ。

 物語は子供相手に本気の二転三転をし、予防線や防波堤も張りまくって、真犯人を覆い隠している。

 塚原俊夫くんに証拠である頭蓋骨を一週間も預けたり、再生した復顔術の顔をデパートのショーウィンドウに置かせる指示を大人にしたり、それを新聞に大々的に書け、と指示したり、地球に似たどこか、の異世界ワールドみたいだが目くじらをたてることはない。

 面白い小説なのだから。

 

1925年(大正14年)10月「子供の科学

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)

小酒井不木探偵小説選 (論創ミステリ叢書)